混戦の末にアメリカ大統領選が終結し、バイデン氏の次期大統領への就任が決まりそうだ[1]。来年1月からはじまるであろうバイデン新政権では、就任と同時に「パリ協定」への復帰の姿勢を示しており、エネルギー政策については現政権とは180度方向を変えて、脱炭素社会への取組みが加速していくと考えられている。そのなかで、とりわけ期待されるのが、再生可能エネルギーの普及拡大である。
[1]本原稿執筆時にはバイデン氏は過半数を獲得済みも、まだ法廷闘争が終了していないことに留意
再生可能エネルギーの普及は脱炭素社会の達成に貢献するのみならず、新たな産業としての経済効果、つまりは今回の大統領選でも焦点の1つとなった“雇用創出”においても、期待がされているものである。
では、再生可能エネルギーの普及拡大が本当に雇用創出に貢献するのであろうか? アメリカに限らず、脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの普及が世界各国で広がるなか、どの程度の経済効果や雇用創出の効果が見込まれているのであろうか? 本稿では国際機関が発行する最新報告書をもとに紹介したい。
2020年9月にIRENA(国際再生可能エネルギー機関)が発表した最新レポート「Renewable Energy and Jobs Annual Review 2020」によれば、昨年2019年の1年間において再生可能エネルギー関連の雇用は世界全体で約1,150万人に達することが分かっている。
出典:IRENA(2020), Renewable Energy and Jobs Annual Review 2020
エネルギー源毎に見ると、太陽光発電関連における雇用者数が最も多く、前年の2018年から約4%増加して約380万人に達している。2019年の1年間では、世界全体で約97GWの設備導入が行われているが、このうちの半数以上の55GWがアジア諸国に導入されており、製造拠点も多いことから、全体の約83%に相当する310万人がアジア諸国での雇用となっている。なお報告書によれば、太陽光関連産業における日本の雇用数は約24.1万人である。
次いで多いのがバイオマス関連産業であり、約358万人となっている。これは液体・個体燃料やバイオガスに係るトータルの数字となっている。
一方で、2019年だけでも約23,000本が設置され、設備容量では1年で約54GWもの増加を見せる風力発電業界だが、雇用者数は前年度比で微増にとどまっており約117万人である。
そして再生可能エネルギーの設備容量では全体の約半数近くを占めるビッグセクターとなる水力発電については、新規設備導入が他に比べて少ないこともあり、経年的に見ても変動が少なく、2019年時点で約196万人となっている。
個別の再生可能エネルギー毎に見ると、雇用者数が一定や微増にとどまっているセクターはあるものの、全体としてみれば増加傾向にあり、今後はさらに増えていくことが予想されている。例えば、風力発電のセクターについて、GWEC(世界風力会議)の予想では、2020年から2024年までの5年間で追加的に240万人の雇用が創出されるとされている。
なお、同報告書では、再生可能エネルギーの導入は、従来型の化石燃料に投資するより雇用創出に貢献するとの研究を紹介しており、それによれば、同じ1億円($1=100円とした場合)を投資する場合には、従来型の化石燃料に比べて約3倍もの雇用を生み出す効果があるとしている。
出典:IRENA(2020), Renewable Energy and Jobs Annual Review 2020
雇用創出による経済効果は、環境対策を講じつつも各国が得たい大きな便益であることは間違いないと思われるが、日本はどうであろうか?
同報告書による推計では、日本全体で見た場合の再生可能エネルギー関連の雇用数は約26.5万人となっているが、そのうちの約24.1万人は太陽光関連産業と偏っている。最も国内で設備導入量が多いのが太陽光であることがその理由と考えられるが、現在国内で急速に開発が進んでいるのが風力発電であることを踏まえると、関連雇用数が多いようには見受けられない。これは、風力発電機の製造の拠点が再生可能エネルギーの導入が先行して進む欧州や中国にあることに起因しているものと考えられる。
日本は菅首相による所信演説において、2050年に脱炭素社会を目指す宣言がなされたことから、今後は再生可能エネルギーの導入が加速していくものと考えられる。導入量を増やしていくと同時に、関連産業を活性化させ新たな雇用創出と経済効果を生み出すことができるのか、いままさに正念場にあるのではないだろうか。