2018年8月23日、千葉商科大学(千葉県市川市)にて、シンポジウム「再生可能エネルギー100%の社会の実現に向けてマルチステークホルダーの取り組み」が開催されました。再生可能エネルギーに関心のある企業関係者、自治体関係者、一般市民など約500人が参加しました。
再エネ100%の世界に向けて邁進
冒頭の主催者あいさつで、中根外務副大臣は、今年続発している気候関連災害を受けて「世界中の異常気象の発生は気候変動対策への注意を喚起している」と述べ、気候変動への危機感を語りました。また、来年2019年の夏に開催されるG20サミット議長国として議論をリードし、「再エネ100%の世界に向けて邁進する」との決意を述べました。
続いて、基調講演を行った気候行動ネットワーク(CAN)のラッセ・ブルーン氏は、気候変動の問題の深刻性と緊急性を強調するとともに、このまま温室効果ガスの排出が続けば、1.5℃未満というパリ協定の目標が達成できなくなることに懸念を示しました。加えて、「馬車が自動車に、固定電話が携帯電話に変わったように、かつては信じられなかったような劇的な変化が起きている。それと同様にエネルギーについても大きな転換を起こす必要がある」と述べ、再エネ100%への転換の必要性を強調しました。
再生可能エネルギー100%宣言の国内外の動向の最前線
つづいてのパネル討論1「再生可能エネルギー100%宣言の国内外の動向の最前線」では、実際に再エネ100%をめざすと宣言しているグローバル企業、自治体、大学からキーパーソンを迎えました。
再エネ100%をめざすグローバルな大企業のイニシアティブ「RE100」に参加したイオンの三宅香執行役は、その背景について「一社だけでRE100%をやるより、もっと多くの人で同じ目標に向けて取り組んで行こうよとのメッセージを出すために宣言した。顧客、取引先、物流チェーンの上流にいる人、電気を使っているすべての人への呼びかけと考えている」と話しました。
また、千葉商科大学の原科幸彦学長は、日本初の再エネ100%宣言大学になるための過程について、「通常はそんなに簡単ではない。難しいとはわかっていたが、我々が実例を示せば他の大学がついてくると考えたし、実際に効果は出てきている。」と述べ、他にも再エネ100%への関心を持っている大学がでてきていることを紹介しました。
長野県の中島恵理副知事も、「再エネ100%をめざす長野宣言を策定した。それが実際に達成できるかは実際には難しい現実もあるが、高い目標をたてて向かっていこうという意識は共有できていた」と話しました。進行役のイクレイ日本の大塚直顧問は、再エネ100%自体が目的ではなく、それがより大きな目的、より大きなビジネス戦略の中に位置づけられているという点を指摘しました。
このような宣言が実際に反響を呼び、持続可能な社会をめざす気運づくりにつながっていることがうかがえました。
また、イオン同様、RE100参加企業であるユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの北島敬之ジェネラルカウンセルは、RE100参加のメリットについて、「企業としての評価、信用度が上がってくる。宣言した後に、どのようにエネルギー消費量を減らしていくか考えていく必要があることは重要。RE100はスタート地点にすぎないが、やればできるという自信に繋がり、働くモチベーションを保てる」と話しました。
他方、日本で再エネ100%をめざすことの難しさを指摘する声もありました。RE100参加企業のH&Mジャパンのルーカス・セイファート代表取締役社長は、「日本の再エネ普及率が6%という低さの中、どうやって企業として再エネ100%を日本で実現させていくか。日本独自の難しさもある。日本がもっと野心的に再エネに取り組むようになることに期待している」と語りました。
この国際シンポジウムの参加者に対しては、すぐにRE100に参加するのは難しくとも、再エネ導入のリーダーになってほしい、会社の役員や取締役などを説得していく戦略をたててほしい、とのメッセージも出されました。
エネルギー転換の加速に向けて
パネル討論2「エネルギー転換の加速に向けて」でも、再エネ100%目標を宣言する企業や、行政、自治体のリーダーの参加を得て、再エネ普及のために必要なことは何か、議論を行いました。
自然電力グループコーポレートサービス統括部門責任者である磯野久美子さんは、再エネ100%社会をめざす際の課題としてコストの問題をあげるとともに、「日本でも再エネのコストが今後下がっていくのは確かだ」と話しました。また、再エネ導入が「自治体で雇用を生むこと、エネルギー以外の面での地域の需要に対応できること」をアピールすることで、再エネの必要性の意識を広げようとしていると述べました。
横浜市温暖化対策統括本部企画調整部の大倉紀彰担当部長は、「自治体の企業誘致戦略として電気について考えていかなければならない」と話しました。「ビジョンを掲げて取り組まなければ、横浜が大丈夫ではなくなってしまう。創エネ・電力生産ができる自治体との連携が必要だ」と強調しました。進行役のCAN-Japanの平田仁子代表も、「力をあわせることで可能性が見えてくる。日本の市場で再エネを広げるための議論を加速させていけたら」と指摘しました。
ロクシタンジャポンのニコラ・ガイガー代表取締役社長は、日本での再エネ普及の障害として組織内の問題、情報のギャップ、新しいことにすぐに変えられない、という3点をあげるとともに、「日本では再エネ供給が少ない。再エネに関する情報を交換することで、近い将来には実現できるだろうと思える」と述べました。
大和ハウス工業の小山勝弘環境部長は、「COP21に参加し、気候変動がビジネス上のリスクでありチャンスであると認識して行動している国際企業を目にしてきたことがきっかけになってRE100の宣言を行うことになった」と述べ、「社内でも認識が薄いので働きかけを進めている。宣言した後は仲間が増えたし、気運も高まっていると実感している」と、その宣言の意義を語りました。
折しも、河野太郎外務大臣が、外務省としても再エネ100%をめざしていきたいとの意思表明がありました。外務省国際協力局の孫崎馨気候変動課課長は「他の国との関係ではなく、自分の国が何をするか、自分たちに何ができるのかを提示していかなければ。再エネ100%は難しいが、大使館によっては達成しているところもあり、まったくできない目標ではない」と述べました。
2020年までにRE100への50社参加をめざす
閉会挨拶にて、環境省の笹川博義環境大臣政務官は、「2020年までにRE100への50社参加を目指して、普及啓発を行っていく」と、再エネ普及への決意を語りました。また、マルチステークホルダーの対話の意義を強調し、環境省としても、先進的な取り組みの共有、脱炭素社会の達成に向けた対策の促進、支援を続けていくと述べました。環境省も、環境省として再エネ100%をめざす意思を示しており、今後の取り組みの前進が注目されます。
日本で再エネ100%をめざすには、課題が多いことも事実ですが、これを乗り越えるため、マルチステークホルダーで議論を続け、各主体がひとつひとつ行動に移すことで新たな希望が拓かれるのだ、ということが実感されるシンポジウムとなりました。
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まとめ:伊与田昌慶(気候ネットワーク主任研究員)