IRENA(国際自然エネルギー機関)が2020年4月に公表したレポート「世界の自然エネルギーの展望」”Global Renewables Outlook”は、2050年までの長期的なエネルギー転換において持続可能な低炭素社会を実現するためのシナリオ「エネルギー転換シナリオ」と共に2050年以降の脱炭素化(ゼロエミッション)のシナリオとして「さらに深い脱炭素化の展望」を示しています[1]。2050年までに世界全体でエネルギー関連CO2排出量を70%削減が見込まれている「エネルギー転換シナリオ」では、雇用の増加、より高い経済成長、より清潔な生活環境や厚生面での大幅な改善を見込んでいます。削減量の9割以上は自然エネルギーの利用とエネルギー効率の改善により実現されると見込まれています(図1)。
[1] IRENA(2020) “Global Renewables Outlook: Energy transformation 2050 (Edition 2020)”
このエネルギー転換による広範な社会経済の発展を進めるには脱炭素化を促進する総合的な政策を推進することが重要となり、脱炭素化目標は経済、環境、社会の目標に沿ったものになると指摘しています。例えば、現在欧州で提唱されている欧州グリーンディールなどには、コロナ危機後の経済刺激策として必要なクリーンエネルギーに対する国際的なサポートなどが盛り込まれています。新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的流行により衛生、人道、社会、経済等あらゆる分野で危機的状況が生じており、この状況に対処するためには、適切な社会、経済的施策を、弛みなく大規模に進めることが必要で、同時に世界が社会の脱炭素化を推し進め、気候変動に関わる目標を一刻も早く達成しなければならない状況には変わりがないと指摘しています。
この「エネルギー転換シナリオ」では、より高いGDP成長率を達成できることが示されており、2050年までの累積の便益(メリット)は世界全体で98兆米ドルに達して、エネルギー転換に必要な追加投資をはるかに上回るとしています。さらにゼロエミッションを達成する脱炭素化のシナリオでは、62兆米ドルの費用削減効果があり、追加費用を上回ります。エネルギー転換シナリオでの自然エネルギー分野での雇用は2050年までに現在の水準の4倍に相当する4200万人に増加するとみられています。さらにエネルギー転換に伴う大気汚染の軽減などにより地域での健康が増進することなどを示す厚生指標は14%の伸びを示すとしています。
図1 自然エネルギーおよびエネルギー効率化による世界のCO2排出量の削減シナリオ
出典: IRENA “Global Renewable s Outlook: Energy transformation 2050(Edition 2020)”
IRENAが2020年6月に発表した最新レポート「2019年における再生可能エネルギー発電コスト」では、2019年の約17,000件の自然エネルギー事業プロジェクトから収集したコストデータにより、太陽光発電の発電コストが2010年から82%低下したことを示しています[2]。陸上風力発電は39%、洋上風力発電は29%の発電コスト低下となり、2019年に新規に導入された大規模な自然エネルギー発電事業の設備容量の56%は、最も安価な化石燃料による発電コストを下回っています。このように自然エネルギーによる発電のコスト競争力が安定的に向上する中、モジュール式による導入の容易性、迅速な規模拡大、雇用創出の効果も相まって、各地域でコロナ危機後の経済刺激策として検討する中で大きな魅力になっていると指摘しています。最も価格競争力が低くなった既存の500GWの石炭火力発電を停止し、太陽光や陸上風力発電で代替した場合、石炭価格次第では最大年間230億米ドルの抑制につながる可能性があります。
[2] IRENA(2020) “Renewable Power Generation Costs in 2019”
図2 国際的な大規模自然エネルギー発電による発電コストLCOEの変化(2010と2019比較)
出典: IRENA “Renewable Power Generation Costs in 2019”
国際自然エネルギー機関(IRENA: International Renewable Energy Agency)は、IAEA(国際原子力機関)やIEA(国際エネルギー機関)に続く第三のエネルギー関連の国際組織で、世界のエネルギーシステムの自然エネルギーへの転換を促進するための国際協力のプラットフォームとして2011年に創設されました。バイオエネルギー、地熱、水力、海洋、太陽、風力エネルギーなどあらゆる形の自然エネルギーの幅広い活用と持続可能な利用を推進しており、本部は産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに設置され、160カ国とEU(欧州連合)がメンバーとして加盟しています(2019年末現在)。
自然エネルギー100%プラットフォームのリーフレットでは、自然エネルギー100%を目標に持つ世界の国や地域のマップも紹介しており、IRENA Coalition for Actionのレポート(2019年1月)をベースにしています[3]。すでに61の国が自然エネルギー100%に相当する目標を掲げており、318の都市や地域が自然エネルギー100%を目指すための目標を持っています。
[3] IRENA Coalition for Action “Towards 100% Renewable Energy: Status, Trends and Lessons learned (PDF)”
認定NPO法人環境エネルギー政策研究所
松原弘直