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2024年11月にアゼルバイジャンの首都バクーで開催された気候変動枠組条約(UNFCCC)[1]の締約国会議(COP29)[2]にNGO(非政府組織)のオブザーバーとして参加する機会がありました。

気候変動問題に取り組む130カ国1800以上の環境NGOの国際ネットワークCAN(Climate Action Network)の日本拠点CAN-Japan[3]の一員でもあり、私自身は、パリ協定が合意されたCOP21(2015年)以来の参加です。

パリ協定は、2020年以降の気候変動対策の枠組みで、先進国だけではなく、歴史上初めての全ての国が参加する国際的な合意です。世界の平均気温上昇について2度を目標として、1.5度未満に抑える努力をすることや、全ての国が削減目標(NDC)を5年ごとに提出・更新することになっています(最初は2020年に2030年までの目標、次回は2025年2月までに2035年までの目標)。さらに、先進国による資金の提供にも合意し、途上国も自主的に資金を提供することになっています。

COP29の焦点

このCOP29は、ファイナンスCOPとも呼ばれ、先進国による途上国への気候変動対策支援(気候資金)に関する2025年以降の新たな目標(NCQG)を合意することが最も大きな焦点でした。パリ協定に基づくこれまでの気候資金の目標額は年間1000億ドルでしたが、最終的には新たな目標はその3倍の3000億ドルで合意されました。1.5度目標を達成するために必要な気候資金は、さまざまなシナリオに基づくと年間数兆ドルが必要と言われており、多くの途上国にとって不十分な合意内容となっています。会期中にも、CANが主催する「本日の化石賞」を、日本を含む先進7カ国G7が「受賞」しましたが、歴史的な責任のあるG7諸国が気候資金の交渉を遅らせているのがその主な理由です[4]

再エネについては何が話し合われた?

IEA(国際エネルギー機関)では、2050年カーボンニュートラルのシナリオとして2023年9月にはCOP28に向けて”Net Zero Roadmap”を公表しており、1.5℃を実現するためのシナリオを示しています[5]。 このシナリオの中では、再生可能エネルギー発電設備の容量を2022年から2030年で3倍以上の11TWにする必要があり、送電網への投資額についても 、2030年に現状の2倍以上にする必要があることが示されています。

そのため、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイで開催された昨年のCOP28では、パリ協定の目標達成に向けた進捗状況を5年毎に評価するGST(グローバル・ストックテイク)の結果を踏まえて、各国のNDCを2025年までに見直し、具体的なセクター毎の取り組みとして2030年までに再エネ発電設備の容量を世界全体で3倍にして、エネルギー効率の改善率を世界平均で2倍にすること等に、UAEコンセンサスとして世界190カ国以上が合意しました。

この再エネ導入状況の進捗を定期報告するためのレポートがIRENA(国際自然エネルギー機関)から、公表されています[6]。基準となる2022年末には、世界の再エネ設備容量は3.4TWでしたが、2023年末には3.9TWになり、設備容量として過去最高の約0.5TWが2023年の1年間に増加しました(図1)。

図1: 2022年、2023年(実績値)および2023年(目標値)の自然エネルギー発電設備の内訳
出所:IRENA (国際再生可能エネルギー機関)2024年10月

一方で、2030年までに再エネ3倍を実現するには、年間に約1TW(=1000GW)のペースで再エネを新たに導入する必要があります。つまり、再エネの導入ペースを現状(2023年)の2倍以上にする必要があり、再エネ関連(送電網等のインフラを含む)への投資額もこれまでの年間1兆ドルから2兆ドルに倍増をする必要があります。

さらに、COP29では、世界の再エネ3倍を実現するためのインフラ整備として、バッテリーなどのエネルギー貯蔵の容量を2030年までに現行の6倍(1500GW)以上にすることや、送電網を2040年までに6,500万kWを追加または改修するという「エネルギー貯蔵&送電網の誓約」[7]が議長国から提案され、日本を含む60カ国近くおよび多くの非政府組織や企業が賛同しています(2024年12月現在)。すでにG7諸国はエネルギー貯蔵を1500GWにすることに合意しており、IEAからもレポート[8]上で、その必要性が示されています(図2)。

図2: IEAネットゼロシナリオに基づく自然エネルギーおよびエネルギー貯蔵の設備容量
出所:IEA(国際エネルギー機関)2024年4月

環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直

 

[1] UNFCCC事務局COP29ホームページ https://unfccc.int/cop29

[2] COP29議長国ホームページ https://cop29.az/

[3] CAN-Japanホームページ https://www.can-japan.org/

[4] CAN-Japanプレスリリース https://www.can-japan.org/press-release-ja/4058

[5]  IEA “Net Zero Roadmap” https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-0c-goal-in-reach

[6] IRENA“Delivering on the UAE Consensus: Tracking progress toward tripling renewable energy capacity and doubling energy efficiency by 2030” 2024年10月 https://www.irena.org/Publications/2024/Oct/UAE-Consensus-2030-tripling-renewables-doubling-efficiency

[7] “COP29 Global Energy Storage and Grids Pledge” https://cop29.az/en/pages/cop29-global-energy-storage-and-grids-pledge

[8] IEA “Batteries and Secure Energy Transitions” 2024年4月https://www.iea.org/reports/batteries-and-secure-energy-transitions