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気象条件に応じて変動する自然エネルギーは、「お天気任せで信頼できない」と言われてきました。とはいえ、日本でも年間で15%以上を賄うようになっています。変動する自然エネルギー電力は、どのように電力需給に貢献しているのか、ISEP Energy Chartから見ていきましょう。

エネルギーデータと政策立案

先行して自然エネルギーの普及が進んできたドイツやデンマークでは、エネルギーに関するデータがタイムリーに公開され、政府機関や独立した研究機関などがそれらのデータを可視化し、研究や政策提言に活用してきました。そこでは共通のデータのもと、さまざまな視点から科学的な分析がおこなわれ、さらなる自然エネルギーの普及拡大に向けた戦略が立てられ、現実にエネルギー転換が進んできたという側面があります。

例えば、ドイツではフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所による「Energy Charts」や、アゴラ・エネルギーヴェンデによる「Agorameter」など、一般の人々も可視化されたエネルギーデータにアクセスすることができます。

遅ればせながら、日本でも電力システム改革の進展にともなって、2016年4月分から、10の電力エリア毎に1時間単位の電力需給データが公開されるようになりました。これにより、長年「お天気任せで信頼できない」と言われてきた自然エネルギーが、実際にはどのように電力システムの需給に貢献しているのか、データをもとに検証することが可能になりました。

しかし、公開された数字だけを見ても、具体的なところを理解するのはなかなか難しいものです。データのフォーマットを整理し、グラフ化し、数字の意味を分析することで、エネルギー転換の進捗と課題を理解することができます。このような役割を果たすべく、2018年2月、環境エネルギー政策研究所(ISEP)が「ISEP Energy Chart」を開設しました。

ISEP Energy Chart

ISEP Energy Chart では「発電量の推移」「電源構成」「累積設備導入量(電力・熱)」の3つのグラフを見ることができます。それぞれのグラフでは、ユーザーが期間や時間の単位(日/週/月/年)を操作してインタラクティブに見ることができます。また、グラフの画像データと元データをダウンロードすることもできます。

発電量の推移

「発電量の推移」では、電源種別の発電量を時間軸上に積み上げて表示します。

電源構成

「電源構成」では、指定した期間の電力量の電源構成比を円グラフで表示します。

累積設備導入量(電力・熱)

自然エネルギー設備の累積導入量を年次の棒グラフで表示します。

探索

ISEP Energy Chart の独自機能である「探索」では、指定したエリアと期間の自然エネルギー発電の最大・最小記録を探索することができます。

では、変動する自然エネルギーが現在どのように電力需給に貢献しているのか、具体的に見ていきましょう。

もっとも太陽光発電が多かった日時は?

世界の多くの国では風力発電の導入が先行し、追随して太陽光発電が急速に導入量を増やすという傾向がありますが、日本では突出して太陽光発電の導入が進んでいます。固定価格買取制度がはじまった2012年以降、毎年の太陽光発電の導入量が、それ以前とはケタ違いに増えていることが、累積設備導入量のグラフからわかります(図1)。

図1. 全国の自然エネルギー累積設備導入量|出典:環境エネルギー政策研究所(2018)ISEP Energy Chart「累積設備導入量(電力)」全国エリア 2001年〜2016年データ.

こうした太陽光発電の急速な普及拡大がもっとも顕著に進んでいるのが九州エリアです。「自然エネルギー白書2017」でも、九州エリアで設備認定および導入が進んでいることが述べられています(2.3 FIT制度の動向- 地域別の導入実績)。

では、九州エリアの電力需給を1時間単位で見たとき、太陽光発電を含む自然エネルギーが需要に対してもっとも高い割合を占めるのは、いつで、それは何%になるのでしょうか。ISEP Energy Chart の「探索」で調べてみましょう。

2018年度に、九州エリアで、水力を含む自然エネルギーの割合が、1時間単位で最大値・最小値になるのは?

条件を入力して探索すると、2018年5月3日 12:00 に 7,342MWh で、需要に対して96.1%を供給していたことがわかります。

この時間帯を含む「発電量の推移」グラフを表示させると、次のグラフを見ることができます(図2)。

図2. 発電量の推移|環境エネルギー政策研究所(2018)ISEP Energy Chart「発電量の推移」九州エリア 2018年5月3日データ.

このグラフから、2018年5月3日12:00の需要(点線)の大半が太陽光発電で賄われていることが視覚的にもわかります(12:00〜13:00の太陽光発電の発電電力量は6,216MWh)。「お天気任せで信頼できない」と言われてきた自然エネルギー、特に太陽光発電ですが、季節や時間帯によってはすでに電力システムで主要な供給源になっていることがわかります。

そして、本稿執筆時点ではデータアップデートの都合上、2018年6月までのデータに限定されていますが、10月13日には九州エリアで太陽光発電の出力抑制がおこなわれています。出力抑制が実施された当日や翌日は、メディアでの報道も過熱しましたが、このような電力システムの運営に関する重要なイベントについても、データにもとづいて検証していくことが、自然エネルギー100%に向けた転換を着実なものにするために必要です[1]

[1] 出力抑制については、安田陽氏によるコラム「出力抑制「狂想曲」再考」を参照。

九州エリアでの出力抑制については、ISEP Energy Chartで速報を掲載してますが、後日、検証記事の掲載を予定しています。

エネルギーデータ可視化の課題

ここまで見てきたように、エネルギーデータを可視化することで、自然エネルギー電力の実態を具体的に理解することが可能になります。また、同時に電力システムの課題を理解することにもつながります。

一方で、エネルギーデータ可視化の課題も多々あります。もっとも大きな課題は、各所がデータの公開をはじめたとしても、そのフォーマットが必ずしも統一されていないため、可視化できるデータセットに整理するまでに多大な時間とコストがかかってしまうことです。エネルギーデータの公開は、可視化を前提としたフォーマットで統一することが求められます。

この点については、エネルギー分野に限らず社会全体でデジタル化が進行しているデンマークのオープンデータ化が参考になります。デンマークの送電システム運営機関 Energinet は、電力・ガスに関する情報を整理して公開するWebサイト「Energi Data Service」で、さまざまなデータセットを公開しています。

Energi Data Service で公開されているデータセットの例「自治体毎の発電量」|Energi Data Service(2019)Production per Municipality Data.

自然エネルギー100%に向けて、現在、私たちはどこまで到達できたのか、また、その先にどのような課題があるのか、共通のデータのもとで具体的に理解することが重要です。そして、さまざまな専門機関がオープンデータを駆使して数多くのアイディアを比較検討し、試行錯誤するなかで解決策も生まれてくると考えられます。

古屋 将太(環境エネルギー政策研究所)