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世界全体の人口78億人のうち44億人ともいわれる55%以上が都市圏に住んでいます。都市は世界全体のエネルギーの約3分の2を消費し、2018年のCO2排出量は世界全体の75%に達しており、それらの割合は都市化により増加し続けています。この観点からも、都市は世界の気候変動問題に対して極めて重要な役割を果たす必要があります。電力・熱・交通の各分野の再生可能エネルギー100%目標を持つ都市が増えており、617の都市が自然エネルギー100%の目標を持っています[1]。すでに34カ国で約1,940の自治体が「気候非常事態宣言」を発しており、日本国内でも東京都を含めて72の自治体が宣言しています(2021年5月現在)。

[1]REN21「自然エネルギー都市世界白書 2021」https://www.ren21.net/reports/cities-global-status-report/

東京都では、2019年5月に2050年までの「ゼロエミッション東京」を宣言し、同12月に「ゼロエミッション東京戦略」(以下「戦略」)を策定しました[2]。さら2021年1月に小池都知事が2030年の50%CO2削減(2000年比)をめざすと表明し、同3月には「カーボンハーフ」(CO2排出量・エネルギー消費量2000年比50%削減、再生可能エネルギー電力使用50%)を目標とした「ゼロエミッション東京戦略2020Update&Report」が策定されました[3]。

[2]東京都「ゼロエミッション東京戦略の策定 ~気候危機に立ち向かう行動宣言~」https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy.html
[3]東京都「ゼロエミッション東京戦略2020 Update & Report」https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy_2020update.html

この「ゼロエミッション東京戦略」においては、2050年にCO2排出実質ゼロを達成するために、再生可能エネルギーを基幹エネルギーとして使用エネルギーの100%脱炭素化を目指しています。その実現のためには、これまでの政策や取組みの延長ではなく、全ての分野においてゼロエミッション(脱炭素化)に向けた中長期的な、より大胆な施策が求められています。新型コロナウイルス禍からの経済回復が求められるなか、気候危機を回避し、持続可能な経済復興いわゆる「グリーン・リカバリー」の視点が欠かせません。そこで、東京都のゼロエミッション戦略の実現をより具体化するために、グリーンピース・ジャパンとISEPの共同レポート「東京都の再生可能エネルギー100%シナリオ」において、2050年までのシナリオを2030年の姿と共に検討し、持続可能な経済復興(グリーン・リカバリー)との両立を提言しています[4]。

    [4] グリーンピース・ジャパン/ISEP「東京都の再生可能エネルギー100%シナリオ」https://www.isep.or.jp/archives/library/13360

省エネルギーのシナリオとして、電力・熱・運輸の各分野での脱炭素化に必要な施策を明確にするために、まず各部門の省エネルギーのポテンシャルを示した上で、2050年までのシナリオを検討しています。ゼロエミッション東京戦略をベースに気候変動政策ための各種の制度を強化することで、2030年の「カーボンハーフ」(CO2排出量・エネルギー消費量2000年比50%削減、再生可能エネルギー電力使用50%)を上回る省エネルギーとCO2排出削減を実現し、2050年度までに脱原発と脱化石燃料を前提とした脱炭素化を実現するロードマップのベースとなります。このグリーン・リカバリーを前提とした省エネルギーシナリオにより、2030年にエネルギー消費量を55%削減(2000年比)し、2050年には72%の削減となります(図1)。

図1:省エネルギーシナリオでのエネルギー消費量(部門別)の推移

さらにこの省エネルギーシナリオを前提に東京都において2050年までに再生可能エネルギー100%を実現するシナリオを検討し、省エネルギーに伴う電化と、電力・熱・交通の部門を跨るセクターカップリングによるエネルギー転換のロードマップを示しています。再生可能エネルギーとしては、東京都内および周辺地域(域内)での導入ポテンシャル[5]を考慮して域内でできるだけ再生可能エネルギーの発電設備および熱設備の導入量を増やす想定とし、域外からは主に太陽光および風力発電の電気を調達する必要があります。できるだけ再生可能エネルギー電気を直接使うことができるように電化を進めることになりますが、域内の再生可能エネルギー熱(太陽熱や地熱など)や出力が変動する再生可能エネルギー(太陽光および風力)の余剰電力から製造した水素およびグリーンガス・燃料の利用も想定しています。

    [5] 環境省(2021):REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)http://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html

このシナリオでは、脱原発を前提に2030年に再生可能エネルギー電力の割合を50%以上とした場合、脱石炭をすることでCO2排出量を65%以上削減することができ、東京都の「カーボンハーフ」の目標を上回るCO2排出量の削減が実現できます。さらに2030年再生可能エネルギー電気の割合の目標を50%から100%まで引き上げることでCO2排出量は80%以上削減できます(図2)。脱原発と脱化石燃料を実現し、東京都の域内の再生可能エネルギーの導入を中心として、域外からの太陽光および風力発電の電気の調達により2050年に脱炭素化・CO2排出量ゼロ(ゼロエミッション)を再生可能エネルギー100%により達成することが可能です(図3)。

図2: 再生可能エネルギー100%シナリオにおけるCO2排出削減率の比較

図3: 再生可能エネルギー100%シナリオでのエネルギー構成
(2030年再エネ電力50%)

省エネルギーによる便益(光熱費の削減から投資額を引いた金額)は、2020年から2050年までの累積で22兆円に達し、設備投資および光熱費削減に伴う経済波及効果は約61兆円に達します。省エネルギーによる雇用は13.5万人となります。再生可能エネルギーの導入による経済波及効果は、2030年までの再生可能エネルギー電力の比率を100%とした場合、2050年までの累積で約41兆円となり、雇用は9.5万人となります(図4)。

図4: 省エネルギーおよび再生可能エネルギーによる投資額等の費用および経済波及効果の試算2030年再エネ電力100%

 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所
松原弘直