世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるための温室効果ガス排出量の削減が、2020年からスタートした気候変動に対応する国際的な枠組みであるパリ協定の重要な目標となっています。この目標達成に向けて世界各国は、NDC(国が決定する貢献)とパリ協定に基づく長期戦略をすでに国連に提出していましたが、この11月にイギリスで開催されたCOP26に向けて各国で見直しが行われました。2050年までのカーボンニュートラルはもちろん、特に2030年の削減目標については、EUが55%以上の削減、米国が50-52%削減とするなど、多くの国で従来の目標を引き上げています。最大排出国である中国も、2030年までに排出のピークを達成し、2060年までにカーボンニュートラルを達成するよう努力するとしました。日本は、10月下旬に閣議決定された第6次エネルギー基本計画[1]と地球温暖化対策計画[2]に基づく、NDCおよび長期戦略を提出しており、2050年カーボンニュートラルを前提に、2030年46%削減(2013年比)さらに50%の高みに向けて挑戦するとしています。

[1] 第6次エネルギー基本計画(2021年10月22日閣議決定)
[2] 地球温暖化対策計画(2021年10月22日閣議決定) 

しかし、これらの各国から提出されたNDCに基づき、2030年の温室効果ガス排出削減目標を達成した場合でも、世界の温度上昇は今世紀末までに2.7度に達する可能性があるというレポートが10月下旬に公表されました[3]。これは、2021年9月末までに各国政府(約120か国)から提出されたNDCと、8月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)[4]の内容に基づいています。

[3] UNEP Emissions Gap Report 2021
[4] IPCC 第6次評価報告書

以前、国際自然エネルギー機関(IRENA)が2020年4月に発表したレポート「世界の自然エネルギー展望」を紹介しましたが、そこでは自然エネルギーへの「エネルギー転換シナリオ」として、2050年までにCO2排出量を70%削減と見込んでいました[5]。その後、気温上昇1.5度未満を達成する新たなシナリオ(1.5度シナリオ)を含むレポートが、2021年6月に公表されました[6]。この中では、2050年カーボンニュートラルはもちろん、2030年の排出削減についても各国の現行政策や目標を前提とした「計画済エネルギーシナリオ」(PES)と世界の平均気温上昇で1.5度未満を達成する「1.5度シナリオ」(1.5-S)とを比較しています。

[5] 自然エネルギー100%プラットフォーム「自然エネルギーへの転換とグリーン・リカバリー」
[6] IRENA World Energy Transitions Outlook: 1.5°C Pathway

その結果、これまでに計画済みの政策では不十分で、よりエネルギー効率化や自然エネルギーの導入が世界全体で進む「1.5度シナリオ」を目指すべきだとしています(図1)。その内容の一部をご紹介します。「1.5度シナリオ」では、2050年カーボンニュートラルを達成するために必要なCO2削減量を現在の年間排出量とほぼ同じ年間36.9ギガ(109)トンとしています(図2)。最も大きな役割を果たす手段が、自然エネルギーと省エネルギーです。需要側の電化を含めれば、その合計は必要な削減量全体の約70%に達します。残りの30%のうち、10%を水素関連技術、6%をCCUS(炭素貯蔵・リサイクル)技術、14%をバイオマスと炭素除去技術を組み合わせたBECCSの技術により達成するとしています。

 

図1: CO2排出削減のシナリオ比較(出所:IRENAレポート)

図2: 1.5度シナリオでの炭素排出削減(出所: IRENAレポート)

この1.5度シナリオの実現のための前提として8項目を挙げています。今後10年間で排出量を削減し最も可能性の高いパスを目指すこと。短期的には競争力のある技術を、長期的には排出削減に最も効果的な技術を支援する。石油・ガスへの投資を制限。炭素回収・貯留技術は石油・ガスへの依存度が高い経済圏や他の選択肢がない場合の過渡的な措置。石炭や化石燃料への補助金を廃止。レジリエンス・インクルージョンなどを促進し、エネルギー転換の影響を受ける労働者やコミュニティを保護。すべての国や地域が、エネルギー転換に参加して、恩恵を受ける機会を得られること。

1.5度シナリオの重要なポイントは、電気が主要なエネルギー輸送手段となり、最終エネルギー消費に占める割合は2050年までには50%以上に増加することです。そして年間のエネルギー原単位の改善率が現行の2.5倍に相当する2.9%に上昇することが必要です。水素関連での対応が2050年の最終エネルギー消費量の12%を占める。バイオマスエネルギーは、持続可能性に考慮する必要があるが、2050年には18%を占めます。化石燃料を使わざるを得ない工業プロセスでは、脱炭素化のためのCCSやCO2除去技術などの対策が必要になります。「1.5度シナリオ」では2030年までには、自然エネルギー発電設備の容量が10.7 TWになり、現状の4倍に達すると予測されています。さらに送電網などの古いインフラを更新して自然エネルギーに対応する電力システムの柔軟性を拡充し、さらに長期的な計画で整備をする必要があります。そのために、市場を創出し、コストを削減するための普及支援の政策が必要であり、コロナ禍からの経済回復のためにも多額の公的資金(財政支出)が投入され、民間の投資を大幅に増加させる基盤になります。

1.5度シナリオ実現のためには、2050年までに世界全体で131兆米ドルのエネルギー投資が必要になります。これは年間平均では4.4兆米ドルになり、世界のGDPの約5%に相当します。このうち80%は、エネルギー効率化、自然エネルギー、需要側の電化、送電網、電力システム柔軟性、水素などのエネルギー転換技術に投資する必要があります。これらの投資に対して、2050年までに少なくとも61兆米ドルの投資回収が可能であり、さらに人間の健康や環境影響に関する外部性を考慮すると投資額の2倍から5.5倍のリターンが得られるとしています。また、雇用についても、2050年にはエネルギー部門で1億2千万人の雇用が創出され、そのうち自然エネルギーが4300万人に達するとしています。IRENAの最新レポート[7]によると2020年の自然エネルギーによる雇用は1200万でしたが、2030年にはその約3倍以上の3800万人に達するとしています。

[7] IRENA Renewable Energy and Jobs, Annual Review 2021

国際自然エネルギー機関(IRENA: International Renewable Energy Agency)は、IAEA(国際原子力機関)やIEA(国際エネルギー機関)に続く第三のエネルギー関連の国際組織で、世界のエネルギーシステムの自然エネルギーへの転換を促進するための国際協力のプラットフォームとして2011年に創設されました。バイオエネルギー、地熱、水力、海洋、太陽、風力エネルギーなどあらゆる形の自然エネルギーの幅広い活用と持続可能な利用を推進しており、本部は産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに設置され、先進国だけではなく多くの発展途上国を含む164カ国がメンバーとして加盟しています(2021年6月現在)。

特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直