デンマークでは、2030年までには年間電力消費量に対して自然エネルギー100%を目指すことが目標になっており、さらに2050年までの長期目標として脱化石燃料や全エネルギー消費に対して自然エネルギー100%を目指している。デンマークの電力システムにおいては、2020年の段階ですでに風力を中心としたVRE(変動性自然エネルギー)の割合が50%を超えており、VREの割合が比較的高い欧州各国の中でも最も高いレベルとなっている。この経験を活かすことが欧州各国、ひいては世界各国での自然エネルギー導入に対してとても有効な取り組みになっている。
デンマークエネルギー庁が2021年6月に公表した最新レポート「デンマークの電力システムにおける柔軟性の発展とその役割」 [1]では、風力・太陽光で電力の50%をまかなうための統合ソリューションと100%の未来に向けた可能性が示されている。そこで、VREの割合がようやく10%を超えたレベルの日本でも、今後、このデンマークでの知見を活かすことが求められるはずである。
VREの割合が年平均で50%を超えたデンマークでは、すでにVREの供給が需要を上回る日もあり、電力システムがVRE100%で運用され、余剰となった電力は輸出されている。図1に示すように20年前の2000年には、デンマークのVREの割合は約12%で、現在の日本と同じレベルだったが、2010年には約22%に達している(日本が第6次エネルギー基本計画で2030年の目標とするレベル)。このように、電力の安定供給を維持しながら、費用対効果の高い方法で大量のVREを電力システムに統合することが可能であることを2000年から20年間の経験で示している。それまでの火力発電を中心とした電力システムからVREを大量に供給する電力システムに移行する際には、多くの課題があったが、合理的なコストで電力の安定供給を維持し、VREの変動性に対処するためには、「柔軟性」が必要だった。
図1: デンマークのVRE割合と、ピーク時の電力需要に対する火力発電、VRE、連系線の容量の推移
デンマークにおける電力システムの柔軟性の発展には、2000年からの電力市場の自由化やエネルギー事業者の発送電分離が大きな役割を果たしている。特に当日市場(時間前市場)が、価格シグナルを通じて電力市場が電力システムの柔軟性に対応するために重要な役割を果たしている。発電所の運用者がこの電力市場に参加することで、電力システムの柔軟性が生まれてきた。その2000年から2020年までの柔軟性の発展を5年毎に時系列で振り返ることができる(図2)。VREの割合が20%未満だった2009年以前は、柔軟性は主に柔軟な火力発電所の運用、連系線の利用および予測・発電計画システムだった。特に、VREの割合が高くなるとこの予測・発電計画システムの重要性が増してきた。
図2: デンマークのそれぞれの期間において優先された柔軟性の手段
デンマークでは、地域熱供給と共にCHP(熱電併給、コジェネレーション)設備が導入されてきたが、電力市場の価格変動に対応して運用することになった。VREの供給量が多いときには、CHPの発電出力を大幅に減らすインセンティブが働いた。さらに、熱と電気のセクターカップリングで発電出力と熱供給の比率を変えることで調整している。
2010年から2015年に、VREの割合は20%から44%に急増した。このため、柔軟性への投資が必要となり、CHPの電気と熱を分離するタービンの完全バイパス運転、そして電気を熱に変換するPtH(パワーツーヒート)と呼ばれるセクターカップリングの技術として電気ボイラーやヒートポンプが導入された。また、デンマークは歴史的に近隣諸国と国際連系線で連系されていたが、その容量がすべて市場で利用可能となることで、利用率が向上した。2000年に北欧の電力取引所(ノルド・プール)に加盟し、2015年には欧州で統一された前日市場(スポット市場)が導入され、より広域のエリアでの需給調整が可能となり、柔軟性が向上した。さらに、2018年には欧州広域の当日市場が開設され、VRE自身が当日市場で発電の予測誤差を調整するようになった。
VREの割合が50%を超えてくると、新技術や既存技術の利用、デジタル化、データドリブンなビジネスモデルを通じて、セクターカップリングと共に、アグリゲータなどを介して消費者が電力システムに積極的に参加することでデマンドサイドの柔軟性を促進する必要がある。電力市場は今後も柔軟性の推進役であり、2030年までにデンマークの電力システムを自然エネルギー100%にするために、柔軟性の向上の促進の取り組みが継続的に進められている。
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直
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