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7月15日、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン主催のウェビナーが開催されました。環境エネルギー政策研究所(ISEP)理事の松原弘直さんと、NPO法人 上田市民エネルギー理事長の藤川まゆみさんが温暖化対策のために再生可能エネルギーを導入していくことに関する疑問や不安の声に答えました。本プラットフォームでもそのお話の中からQ&Aの要点を抜粋して紹介いたします。
「再エネって問題があるんでしょ?」という疑問を持たれた方、周囲の人からそういう質問をされた方、ぜひご参考にしてみてください。


もやもや その1:太陽光パネルってゴミになるでしょ?

太陽光パネルの耐用年数は20〜30年。
使用後の太陽光パネルは別の場所で再使用=リユースされたり、リサイクル処理されています。
太陽光パネルは大まかにアルミフレーム、セル、ガラスで構成されていて、95%以上がリサイクルできるものです。
太陽光を電気として出力する太陽電池セルは厚さ1ミリ以下と薄く、アルミもガラスもリサイクルできる素材です。
現状でも年間1,000トン程度リサイクル処理できています。

太陽光パネルの素材の内訳(重量)

太陽光パネルの廃棄量は2030年代後半ごろには年間50万〜80万トンぐらいになるのでは、と予測されています。
この量は1年に廃棄処理される自動車スクラップと同程度、日本の年間廃棄物量の1〜2%にあたりますが、前述の通りリユースも可能で、95%がリサイクル可能な素材でできているため、すべて廃棄物になるわけではありません。
2020年の日本全体の産業廃棄物の量が3億9200万トンですから、廃棄物の問題は太陽光パネルだけの問題ではありません。

リサイクルの技術も向上していますし、日本はこの技術力では世界でもトップレベルです。日本がこの分野でこれからもっと世界の問題に貢献できるかもしれません。
太陽光発電事業者が廃棄費用を積み立てることを義務化した制度も、今年7月から始まっています。

もやもや その2:太陽光パネルはレアメタルや有害物質も使ってるし…

太陽光パネルのセルの9割はシリコン、いわば砂と同じ元素で、ごくありふれた素材です。しかも、上記で説明したとおり、リサイクル技術も発展してきています。

世界の太陽光パネルの7割が中国製で、それがどこからどうきているのかわからなくて、不安な人もおられるでしょう。
日本で流通している多くの製品に中国製品が含まれています。太陽光パネルだけでなく、あらゆる製品について、何がどうしてどこで生産されて、なぜそこから日本で流通しているのかを可視化するトレーサビリティの問題として考える必要があります。

かつては日本が世界第一位の太陽光パネル生産国だったのですから、国産を増やすこともできるかもしれません。

風力発電や電気自動車に使用されている永久磁石の原料はレアメタルです。蓄電池のリチウムも特定の国でしか採れません。
将来的には別な素材でつくれる技術の開発が必要で、すでに開発の検討は始まっています。

太陽光パネルはこれから大量生産されるようになっていきます。
といってもとくに変わったプロセスで製造しているわけではなく、環境への影響そのものは他の工業製品と比較して別段有害というわけでもありません。
他の工業製品と同じように、製造責任を消費者が監視して、透明化を求めていくことが大切です。

もやもや その3:メガ発電(ソーラー・風力)は環境破壊でしょ?

問題は「どこに設置するか」ですよね。
日本の土地利用の規制はゆるく、例外を除いて、原則的には土地の所有者の権利が優先されます。管轄も縦割りで、林地なら林野庁、農地なら農水省、市街地は国交省が規制のルールをつくっています。
本来なら先に土地利用などのルールを整備しておくべきだったのに、再生可能エネルギーは開発が先に進んでしまいました。したがって、条例などが整備されていないためにトラブルに発展するケースが出てきます。
事業者にはガイドラインも遵守する義務はありますが、果たしてきちんとまもられているのでしょうか。

田んぼや作物の上にソーラーパネルを置いて、太陽光発電を行うソーラーシェアリング。兵庫県宝塚市。

行政が後手にまわって災害や環境破壊になってしまわないように、ヨーロッパのように、土地の価値を評価して、その利用をあらかじめ計画する規制はゾーニングと呼ばれ、日本でも強化する必要があります。
自治体や地域の主体的な参加も重要です。たとえば地域の人が事業に参加して、何割か出資して発電施設をつくるようになれば、自ずと地域での合意形成が要求されます。

地球温暖化が進めば、世界的に環境は破壊されます。
再生可能エネルギーは、環境破壊を最小限に抑えながら、エネルギー自給率の向上や地域の活性化などさまざまなメリットがあります。それを踏まえて、何がベターなのか、みんなで話しあうプロセスは必要不可欠です。

もやもや その4:太陽光発電は天候に左右されるから不安定でしょ?

もちろん、太陽光発電は夜間は発電することはできませんが、蓄電池を使って、昼間発電した分をためることもできるし、揚水発電でも同じことができます(*揚水発電:水を調整池に汲み上げておいて、下部へ流して発電するしくみ)。
水素の形でも、電気をためる技術があります。水素なら長期間にわたって電気をためられます。
最近の太陽光パネルは、曇りでも雨天でも発電できるようになりました。とはいえ、風力や地熱など、太陽光以外の再生可能エネルギーをもっと導入する必要があります。

クラウドファンディングで福島県田村市のコミュニティストアの屋根にソーラーパネルを設置したキャンペーン。2016年。

もやもや その5:ソーラーパネルって高いんでしょ?元がとれないのでは…?

いくらなら「高い」と感じるか、逆に「安い」と感じるかは人それぞれ何と比べるかですよね。
発電コストでいうと、世界では太陽光発電のコストはこの10年間で4分の1近くになりました。
風力発電と共に化石燃料の平均的な発電コストである10円/kWhに近づいています。
20円/kWh程度の家庭用の電気料金と比べても安くなってきています。

一方で、海外からの輸入に頼る化石燃料の価格は国際的に上昇しており、日本国内でも燃料調整費といって、電気代に上乗せされる燃料の変動コストがこの1年半で10円前後値上がりしていて、これからもまだ上がる可能性があります。

出展:IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書SPM解説資料(国立環境研究所)

太陽光発電のコストは年を追うごとに安くなっています。
住宅用の太陽光では初期費用が100万円程度かかりますが、発電により10年程度で回収でき、初期費用0円で導入する仕組みもあります。
自治体ごとに助成金の制度もありますから、まずはお住まいの地域の窓口で確認してみましょう。
太陽光パネルを設置できなくても、再生可能エネルギー100%の電気を買って応援することができますので、電力会社の切り替えも検討してみてください。

再生可能エネルギーや省エネルギーは長期的に投資が回収できるから実質的な導入コストはゼロ、という時代に入っています。
将来の技術を待つのではなく、いまある手段で、温室効果ガスの排出を早く減らさなければ地球の気温は上昇し続け、取り返しのつかない環境破壊につながります。
未来の世代は、自ら温室効果ガスを過剰に排出したわけではないのに、灼熱の地球で暮らさなくてはならないかもしれない未来に直面しているのです。

いまならまだ間に合う、ラストチャンスなのです。

もやもや その6:そもそも再エネ100%って実現可能なの?無理じゃない?!

日本の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルはとても高くて、環境省によれば、現在の電力供給量の2倍以上と試算されています。
ポテンシャルだけでなく、市町村の中にはすでに再生可能エネルギーの割合が100%を超える自治体が100以上あります(エネルギー永続地帯)。
さらに、実際に、晴れていれば昼間の電気は太陽光発電ですべてまかなえる地域や時期も出てきています。
2021年5月3日の昼間の数時間の間、四国では電力の再生可能エネルギー100%を達成しました。
不可能ではないのです。

環境省ウェブサイトより

長期的に再生可能エネルギー100%を目指している国は世界で32、都市は617あります。デンマークは2050年までに脱化石燃料という目標を掲げて、再生可能エネルギー100%を目指しています。
世界の企業でも電力の再生可能エネルギー100%目標を目指しているのは350社、うち日本企業は72社を占めています。再生可能エネルギー100%の電気が低コストで長期的に調達できるしくみができつつあるからです。

いずれにせよ、実現には目標と適切なルール(制度)を決めて、事業者だけではなく、行政と市民が地域で協力することが必須です。

ヨーロッパ諸国と比較すると10〜20年は周回遅れといわれる日本の再生可能エネルギーですが、これからの10年の取組みがとても重要です。
現在の日本政府の目標は2030年に再エネ38%ですが、すでに平均で再エネ40%近いヨーロッパでは、ウクライナ危機で、電力で再生可能エネルギー100%の達成を早期に目指そうとする国が増えています。

これまでの10年間で、太陽光発電の導入量を国民一人当たりに換算すると、1位オランダ、2位オーストラリア、3位ドイツに次いで、日本は世界4位になりました(2021年末)。
赤ちゃんからお年寄りまで、日本に住む人全員が300Wの太陽光パネルを2枚持っている計算になります。

好むと好まざるにかかわらず、気候変動をくいとめるためのカウントダウンはもう残り7年ちょっと。再生可能エネルギーへの転換はすでに始まっています。
誰もが冷静に、客観的に、かつポジティブに、どんな未来を築きたいか、どんな社会で暮らしたいか、そのためにはエネルギー問題にどう向きあえばいいのか考えて、話しあうときがきているのではないでしょうか。

参考:
・掲載元はこちら
・自然エネルギーについてよくある質問集