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※以下は、自然エネルギー100%プラットフォーム運営委員の一団体である国際環境NGO FoE Japanの記事を許可を頂いたうえで転載したものになります。

ドイツが最後に残っていた3基の原子炉を停止した2023年4月15日から1年が経ちました。
「電力価格安定のために原発は必要」「原発を止めれば石炭火力が増える」…

ドイツでもそのような批判的な声がありましたが、実際には再エネが伸び、電力消費は減少、化石燃料発電も大きく減少する結果となりました。すでに日本でも報道されていますが、フラウンホーファーISE研究所のリリースを紹介します。

▼元の記事はこちら:フラウンホーファーISE研究所 2024年4月15日
「脱原発から1年、再エネが伸び化石燃料発電は減少」

https://www.ise.fraunhofer.de/de/presse-und-medien/presseinformationen/2024/ein-jahr-ohne-kernkraft-erneuerbare-energien-ausgebaut-fossile-stromerzeugung-deutlich-gesunken.html

原子炉をすべて停止してからの1年間で、化石燃料発電は26%減少

2022年4月16日から2023年4月15日までの1年間、原子力は29.5TWh(2,950万kWh)、電源の6.3%分を発電していた。

脱原発後も原子力に関する論争は続き、2023年夏に電力輸入が増えた際には、「ドイツは電力輸入国になってしまった」「原子力を止めた分、石炭火力に代替される」などと批判された。

「しかし実際には、原子力による発電は再エネによって置き替えられました。脱原発後の1年間で、再エネの発電量は前年より33TWh増え、270TWhとなりました。ドイツの電源はよりクリーンになったのです。」フラウンホーファーISE研究所で電力データベースの責任者のブルーノ・ブルガー氏は言う。

2023年4月から2024年4月の1年で、再エネの発電割合(送電ロス含む)は58.8%にも達している。

省エネが進み再エネが増える

再エネ増加の一方で、化石燃料発電は減少している。脱原発後の1年間で、石炭火力、ガス火力、石油火力、廃棄物発電を合計した化石燃料発電は、約154.4TWhであった。近年よりかなり減少、特にその前の1年に比べると26%減少している。その背景には、ガス価格、石炭価格の高騰と、高いCO2クレジットの価格があった。電力消費量も2.1%減少し459TWh。産業・家庭部門ともに省エネが進み、生産量全体が減少、さらに太陽光自家発電が増えたことによる。

脱原発後の1年間、ドイツでは需要を満たすのに十分な発電容量を持っていたにも関わらず、電力輸入量は増加した。電力のピーク需要は約7500万kWだったが、非変動電源の容量は約9,000万kW分ある。さらに、再生可能エネルギーの太陽光発電(約8,500万kW)と風力発電(約7,000万kW)、そして揚水発電(約950万kW)がある。

「脱原発の前の1年では21.3TWhを輸出していたのに対し、23TWhの電力を輸入したのは、発電容量不足のためではなく大幅な市場価格下落が理由でした。夏には、水力発電を多く有するアルプス各国やデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの再エネ発電所が安価に電力を発電したため、ドイツの石炭火力発電は競争力を失いました。温室効果ガス排出量の少ない電力が大量にドイツに入ってきたのです。」とバーガー教授は説明する。さらに、フランスの多くの原子力発電所が2022年の故障を経て発電を再開し、余剰電力を輸出したこともあった。

電力市場価格の下落

電力取引価格(前日スポット価格)は、ウクライナ戦争前よりも低い2021年4月の水準まで下落している。2024年4月の月平均前日スポット価格は48.39ユーロ/MWh、4.8セント/kWhである。家庭用電気料金も2021年の水準に回復している。

<<記事紹介ここまで>>

関連して、ドイツの脱原発をめぐる状況について、『福島の今とエネルギーの未来2024』掲載の記事から一部転載します。

脱原発をめぐる紆余曲折

もともと、ドイツの脱原発は2022年末に完了する予定だった。しかし2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、電力安定供給などを理由に4ヶ月延長していた。それまで頼っていたロシアからの天然ガスの輸入を止めたことも背景にある。3基の原発についてもさらに稼働を延長すべきという議論もあった。社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の三党連立によるショルツ政権内でも、FDP党首で財務大臣のクリスチャン・リンドナー氏は稼働の延長を主張した。また、バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏(CSU:キリスト教社会同盟)は、原発の運転を国から州の管轄に移して再稼働をするべきだと訴え、その主張は原発停止後の現在も続いている。

一方、緑の党の環境大臣シュテフィ・レムケ氏は、「過酷事故を繰り返さないためにも原子炉の閉鎖が必要」とし、ゼーダー氏の主張は法的プロセスを無視し安全確保への責任を放棄していると批判した。
市民の間でも意見の分裂があったが、ついにドイツで原子力発電の稼働は終了した。今後政治状況や連立政権の状況が変われば、原発を復活させる議論が起こる可能性も否定できない。ただ現実には、現在ある原発はすでに廃炉プロセスに入っており、「新型炉」の新規建設は非常にコストがかかる。すでに再エネによる電力供給が60%に近づこうとしているドイツで、原発への回帰は現実的ではないだろう。

ドイツの核廃棄物処分場問題

ドイツの原子力政策を語るうえで、最終処分場に関する議論は欠かせない。1970年代、旧東ドイツと旧西ドイツの国境付近のゴアレーベンに再処理工場の建設計画が浮上した。市民の強い反対によって再処理工場の計画は中止になったものの、最終処分場を建設する計画が残った。1995年に初めて、放射性廃棄物のキャスターがゴアレーベンに運び込まれた。これ以降、放射性廃棄物の輸送にも強い反対運動が起こり、列車の物理的な運行阻止なども行われた。科学的な議論や市民参加による検討プロセスなしに最終処分場をゴアレーベンと決めたことに対して市民の反発は強く、地域の農業者をはじめとして各地から声が上っていた。2013年に処分場選定法が制定され、その中でゴアレーベンの白紙撤回が決められた。2017年の法改正で選定基準を明確化、プロセスを監視する委員会が設置された。そこには、無作為抽出の市民を参加させ、特にそのうち2名は若い世代とするなど多様な市民の意見を取り入れる工夫が行われている。

ドイツのエネルギーをめぐる現在の状況

ドイツは、2030年までに石炭火力発電からの脱却と再エネ電力を80%以上とすること、そして2035年までには電力供給を再エネ100%とすることを目標として掲げている。ただし、リンゲンでの仏フラマトム子会社による核燃料製造やフランスやベルギーなど隣国の原発、そして放射性廃棄物の最終処分場選定など、原子力との対峙は今後も続いている。

2022年、隣国のフランスが大きなエネルギー危機に直面した。複数の原発が危険な腐食損傷や、安全点検、猛暑による冷却水不足などの理由で立て続けに停止し、数ヶ月にわたり約半数の原子炉が停止した。欧州の電力市場の価格も押し上げた状況のなか、ドイツからの電力購入がフランスの電力供給を支えた。

ドイツの総発電量における再エネの割合は、2022年に47%であったが、2023年にはついに50%を超え、54.9%へと大きく伸びている(*2)。割合としては洋上風力が大きく、太陽光も着々と増えている。原子力から脱却したいま、地域に根ざした再エネをさらに増やし、化石燃料からの脱却を実現していけるのか、今後も注目される。

*1 BBC、南ドイツ新聞、シュピーゲル誌の報道などより。レムケ氏については、2023年4月来日時の岩波書店インタビューも。https://foejapan.org/issue/20230915/14399/

*2 フラウンホーファーISE研究所、”Öffentliche Stromerzeugung 2023: Erneuerbare Energien decken erstmals Großteil des Stromverbrauchs”、2024年1月2日

https://www.ise.fraunhofer.de/de/presse-und-medien/presseinformationen/2024/oeffentliche-stromerzeugung-2023-erneuerbare-energien-decken-erstmals-grossteil-des-stromverbrauchs.html
※54.9%は製造業等での自家発電を参入した場合の割合であり、送電線に流れる電気の再エネ割合は59.7%に達しているという。

<参考>

・日本経済新聞「ドイツ脱原発1年、電力輸入は超過 くすぶる再稼働論」2024年4月16日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR12CTE0S4A410C2000000/
・東京新聞「『脱原発』から1年、廃炉が粛々と進むドイツ・・・日本も抱える共通の課題はどうなっている?」2024年3月17日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/315624