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2017年11月、ドイツの固定価格買取制度の生みの親であるハンス=ヨーゼフ・フェル氏が率いるエナジー・ウォッチ・グループは、フィンランド・ラッペーンランタ工科大学との共同研究プロジェクト「自然エネルギー100%にもとづく世界のエネルギーシステム(Global Energy System based on 100% Renewable Energy)」の成果を発表しました。この研究では、2050年に世界の電力を自然エネルギー100%で賄う状況をシミュレーションし、それが技術的にも、経済的にも実現可能であることを示しています。

今日、世界規模で自然エネルギー100%へ向かう流れが日々勢いを増していますが、「2050年自然エネルギー100%電力」の社会は具体的にどのような姿で構想されるのでしょうか?ハンス=ヨーゼフ・フェル氏とクリスティアン・ブライヤー氏(ラッペーンランタ工科大学)が、雑誌「The BEAM」に寄稿した記事「世界の自然エネルギー100%電力はコスト効率的な新しい現実(100% renewable electricity worldwide is a new cost-effective reality)」から、電源構成、コスト、雇用効果、支援政策のあり方などの概要を見ていきましょう。

昨年2017年、コスタリカは自らの記録を破りました。中米に位置するこの国は、300日間を自然エネルギーから生み出された電力のみで賄ったのです。ノルウェーやアイスランドに続いて、コスタリカは、新興国がどのように化石燃料を使わないシステムへと移行させることができるのかを世界に示そうとしています。

自然エネルギーは、新興国と途上国の市場でますます成功ストーリーを生み出しています。昨年、これらの国々がグリーンエネルギー投資を主導しました。中国は2017年に約54GWの太陽光発電を導入しました – それまで他の国が導入してきたものの3倍以上であり、これにより中国の総設備導入量は世界トップの120GWとなりました。インドもまた追随して、政府は2022年までに200GWを超える自然エネルギープロジェクトの入札を発表しています。金融アナリストたちによれば、2020年までに自然エネルギーはもっとも安い電源になると言われています。

主な知見と要旨(英語PDF)

すべてが自然エネルギーで駆動する世界の電力システムは、もはや長期的なビジョンではなく、目に見える現実となっています。しかし、化石燃料や原子力のロビイストたちは、古いシステムを温存するため、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの変動性についての批判を展開します。

ラッペーンランタ工科大学(LUT)とエナジー・ウォッチ・グループ(EWG)による新しい革新的研究は、そのような主張が完全に誤っていることを証明します。

この研究[1]では、1年間を通じて、1時間単位で世界の電力システムがすべて自然エネルギーで賄われる状況をシミュレーションしています。その結果、現存する自然エネルギーのポテンシャルのもと、蓄電池を含む既存の自然エネルギー技術が2050年までに世界の電力供給を十分に確保することができることがはっきりと示されました。より望ましい政策枠組みのもとであれば、世界の電力システムを完全に脱炭素・脱原発することは、さらに早期に実現することができます。

[1] 研究プロジェクト「自然エネルギー100%にもとづく世界のエネルギーシステム(Global Energy System based on 100% Renewable Energy)」は、ドイツ連邦環境基金(DBU)とメルカトル財団による助成を受けています。

また、この研究は、化石燃料や原子力をベースとする既存のシステムよりも自然エネルギー100%電力の方がコスト効率的であることを示しています。世界の自然エネルギー100%電力の均等化発電原価(LCOE)は、2015年の70ユーロ/MWhから、2050年に52ユーロ/MWhまで下がる見通しです(出力制御、蓄電、系統コストを含む)。

すべてが自然エネルギーで駆動する世界の電力システムは、もはや長期的なビジョンではなく、目に見える現実となっています。

ますます急速に進むコスト低下により、太陽光発電と蓄電池が電力システムの大半を占めるようになっていくでしょう。2050年の世界の電源構成は、太陽光発電が69%、風力発電が18%、水力発電が8%、バイオエネルギーが2%といった見通しです(図1)。

図1. 2015年と2050年の自然エネルギーによる発電力の割合(2050年のガスは自然エネルギーベースのガスのみを利用する。2050年に、原子力は技術的な寿命の想定から0.3%残るが全体の発電量の中では取るに足らず、また、より早期に廃止される可能性もある。)

世界の自然エネルギー100%電力システムは、より効率的なものとなります。2015年の世界の電力分野からの温室効果ガス排出量は11GtCO2ですが、自然エネルギー100%電力により2050年にはゼロにまで減らすことができます。自然エネルギー100%電力システムでの損失は、現在のシステムに比べてはるかに少なくなります。そして、自然エネルギー100%電力システムに移行することで、2015年に1,900万人だった雇用を2050年には3,600万人にまで増加させます。

図2. 2015年と2050年の世界の電力供給の総均等化発電原価

世界のエネルギー転換シナリオは、2015年から2050年まで5カ年でおこなわれ、世界の主要な地域の自然エネルギー100%電力ロードマップも提供します:欧州、ユーラシア、MENA(中東・北アフリカ)、サブサハラ・アフリカ、SAARC(南アジア)、北東アジア、東南アジア、北米、南米。これらのロードマップは、世界のほぼすべての国々が署名しているパリ協定の目標を達成する方法も示しています。

この研究は、1ドルたりとも化石燃料や原子力発電に投資する理由がないことも示しています。また、エネルギー転換が、もはや技術的な実現可能性や経済的な実行可能性を問う段階ではなく、政治的な意思を問う段階となっていることも示しています。

科学は、自然エネルギー100%電力が実現可能であることを証明しています。いまや政治、ビジネス、市民社会がすばやく行動を起こし、転換を加速させることが求められているのです。

自然エネルギーへの転換を成功させる上で、もっとも決定的となる前提条件は、人々から支持を得ることです。そのため、政策立案者は、望ましい政策枠組みや法律を整えることで自然エネルギーのすばやく安定した成長を促進する一方、化石燃料と原子力発電に対するすべての援助を廃止するべきです。

ドイツの固定価格買取制度を規定した「自然エネルギー促進法(EEG)」は、成功した政策としてもっともよく知られています。私たちは、自然エネルギーと蓄電への投資および系統への統合を同時に促すような、新しく、革新的な政策手法を実行していく必要があります。改正EEG(ハイブリッドな自然エネルギー発電所への報酬)は、これを可能にしました。

エネルギー転換の経済面について、十分な民間投資のフローが自然エネルギーと蓄電技術に流れることで、自然エネルギー100%へのスムーズですばやくコスト効率的な転換が確実なものとなります。

近年、自然エネルギープロジェクトの組成において、入札制度が目立つようになりました。しかし、入札制度が適切に機能するのは、40MW以上の自然エネルギープロジェクトの場合のみであることが、科学的な研究によって示されています。40MW以下にも入札制度を適用した場合、投資家は大企業に限定されてしまい、協同組合のような分散型アクターによる投資を締め出すことになってしまいます。また、固定価格買取制度がよりすばやくダイナミックな自然エネルギーの普及を可能にしたこととは対照的に、入札制度は全体の導入量を限定する可能性もあります。

最後に、自然エネルギーとゼロエミッション技術の領域で、研究と教育を発展させる必要があります。これにより、将来、さらに効果的な自然エネルギー発電方法と新しい技術的なブレイクスルーを期待することができます。

この研究は、電力・熱・モビリティ・淡水化・産業需要などのエネルギーシステム全体を分析する大きな研究枠組みの一部です。ラッペーンランタ工科大学とエナジー・ウォッチ・グループは、2018年に研究全体の知見を発表する予定です。

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著者:ハンス=ヨーゼフ・フェル(エナジー・ウォッチ・グループ代表)、クリスティアン・ブライヤー(ラッペーンランタ工科大学教授)

元記事:The BEAM ”100% renewable electricity worldwide is a new cost-effective reality” by Hans-Josef Fell and Christian Breyer, Feb 2, 2018. 著者許諾のもとISEPによる翻訳

この記事は独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けています。