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デンマークでは、2030年までには年間電力消費量に対して自然エネルギー100%を目指すことが目標になっており、さらに2050年までの長期目標として脱化石燃料や全エネルギー消費に対して自然エネルギー100%を目指しています。デンマークの電力システムにおいては、2020年の段階ですでに風力を中心としたVRE(変動性自然エネルギー)の割合が50%を超えており、VREの割合が比較的高い欧州各国の中でも最も高いレベルとなっています。

この風力発電からの電気は、すでに電力需要を超えるレベルになるタイミングがあり、電力市場ではマイナス価格で取引されることもあります。現在、この余剰電力は、電力セクターを超えて熱のセクターで使われており、デンマーク地域熱供給においては電気ボイラーやヒートポンプを介して蓄熱され、熱供給の熱源となります。これは、Power to Heat(PtH)と呼ばれているセクターカップリングの一種で、デンマークエネルギー庁が2021年6月に公表した最新レポート「デンマークの電力システムにおける柔軟性の発展とその役割」でも、風力・太陽光で電力の50%をまかなうための統合ソリューションと100%の未来に向けた可能性が示されています。

デンマークでは、さらに2050年までの気候ニュートラル(脱化石燃料)の達成を目指すうえで、2019年に策定された気候法により2030年までの温室効果ガス排出70%削減の目標達成が求められています。この70%削減の達成のため、Power-to-X(PtX)戦略をデンマーク政府が策定し、国民議会でも2020年6月に合意されました。その内容が、これから紹介するデンマークエネルギー庁の最新レポート「デンマークのPower-to-X戦略」に示されています。

2020年6月22日のエネルギー・産業等に関する気候合意により、デンマーク政府は、Power-to-X(PtX)と二酸化炭素の回収・利用(Carbon Capture and Utilisation – CCU)に関するデンマークの戦略について、国民議会の大多数の政党と合意に達しました。PtX技術の採用と利用には、戦略的な計画、目標設定、優先順位付けが必要です。このPtXとCCUの戦略により、デンマーク政府は、デンマークにおけるPtXに必要な枠組み条件を整備するための最初の重要かつ包括的なステップを踏み出すことになりました。これらの枠組み条件は、対象技術がデンマークの気候法の目標に貢献し、その事業的な可能性を実現し、デンマークのエネルギーシステムに統合されることを目指しています。

PtX(Power-to-X)は、電気を使って水素を製造する技術を総称したものです。この水素は、その後、陸上輸送や産業用の燃料として直接使用されるか、さらに他の燃料、化学製品、素材に変換されます(図1)。このPtX製品をCO2ニュートラルとみなすには、使用する電気(および炭素)もCO2ニュートラルとみなすことが前提条件となります。つまり、CO2は持続可能なバイオマスに由来するか、大気から直接供給されるものでなければならなりません。

図1: デンマークにおけるPtXの利用方法 出所:デンマークエネルギー庁

PtX戦略は、デンマークエネルギー庁の分析およびPtX業界との対話に基づいています。その結果、デンマークにおけるPtX推進のための4つの目標が政府により設定されました。これらの目標は表裏一体であり、PtXがデンマークの新しいグリーンな公益事業セクターとなり、デンマークの消費者と世界の人々に利益をもたらすグリーン・ソリューションを提供するためには、4つの目標すべてに対してアクションが必要とされています。

目標1) Power-to-Xが、デンマークの気候法の目的の実現に貢献すること

目標2) デンマークの強みを生かし、長期的にPower-to-Xが市場競争できるような制度枠組みやインフラを整備すること

目標3) Power-to-Xとデンマークのエネルギーシステムの統合を進展させること

目標4) デンマークがPower-to-X製品・技術を輸出できるようになること

PtXは、直接電化が不可能な分野、あるいは法外に高いコストを伴う分野、例えば産業・重車両輸送の一部や、船舶・航空分野などで主に推進されるべきものです。デンマーク政府は、すでに電化に関する戦略「Electrification of society – the road to an electric Denmark (電化された社会―エレクトリック・デンマークへの道)」で、将来の電化社会に関する明確なビジョンを打ち出しています。この戦略には、化石燃料社会から電化社会への移行段階において重要であるとデンマーク政府が考える8つの具体的な目標が含まれています。この戦略のシナリオは、多くのセクターで電化の可能性を示しており、2030年以降、間接電化のような技術や市場の発展があれば、電化の可能性はさらに大きくなります。

このPtX戦略では、デンマークが2030年までに4-6GWの電解能力を構築することを目指すべきであると提案しています。この拡大は、PtX分野におけるデンマークの輸出と商業ポテンシャルの実現を支援しつつ、可能な限り市場原理に基づいて行われる必要があります。この目標は、デンマークの地球規模の気候変動への影響を軽減し、国内および国際的な気候変動目標の達成にも貢献することができます。

さらに、デンマーク政府は、国内におけるPtXの工業化と規模拡大を支援し、それによって水素製造に関連するコストを削減することを目的として、水素およびその他のPtXの製造の運営支援に関する入札を通じた投資を提案しています。これにより、PtX分野におけるデンマークのビジネスおよび輸出の可能性とともに、成長と雇用創出を促進することが期待されています。あらゆるPtX関連技術には電解による水素製造が含まれるので、グリーン水素の製造に資金を提供することで、すべてのPtX製造事業者が原則的に入札に参加できる状態を確約できます。この水素は、アンモニア、メタノール、e-ジェット燃料など、他のPtX製品に変換することができます。

PtXの専門知識を有しているデンマーク企業として、約70社の大手および中小企業がPtXのバリューチェーン構築に取り組んでいます(図2)。PtXのバリューチェーンには、電解ユニット、さらなる変換プラント、水素パイプライン、船舶用アンモニアエンジン、水素トラックなどの製造や、セクターカップリングのシステム、さらにインフラなどのコンサルティングサービスが含まれます。

図2: デンマークにおけるPtXのバリューチェーン 出所:デンマークエネルギー庁

特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直