2022年はロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な化石燃料価格の高騰がエネルギー市場に多大な影響を与え、エネルギー危機が現実のものになりました。その中で、昨年2022年の自然エネルギーの成長は加速し続けており、2022年末までには太陽光発電の累積の設備容量は1000GW(ギガワット, 1GW=100万kW=原発1基分)に達して、1TW(テラワット)の領域に入りました※1。
風力発電も累積で設備容量が900GWを超えたとされ、太陽光と合わせると約2TWに達しています。2022年の新規導入量は、太陽光が約190GW、風力発電が約80GWとなり、太陽光と風力と合わせた年間導入量は約270GWに達して、前年の約250GWを超えて過去最高になりました。ここでは、それらの国別の内訳を見ていきたいと思います。
※1 「エネルギー危機により加速する2022年の自然エネルギー市場の成長」https://go100re.jp/3472
コロナ禍でも世界中で自然エネルギーが急成長するなか、すでに世界各国で主力電源となってきている水力発電や風力発電に続き、太陽光発電の導入が世界各国でさらに進んでいます。IRENAでは世界各国の自然エネルギー発電設備の過去10年間のトレンドをまとめたレポートを毎年発行しています※2。2023年3月に公表された最新レポートによると、世界的なコロナ禍の状況にも関わらず世界全体の自然エネルギーによる発電設備は2022年に295GWが新規に導入され、累積では前年から約9.6%増加して、3372GWに達しました※3。2022年に全世界で新規に導入された発電設備の約83%は自然エネルギーで過去最高の割合でした。
※2 IRENA “Renewable Capacity Statistics 2023” http://www.irena.org/
※3 IRENAプレスリリース” Record Growth in Renewables Achieved Despite Energy Crisis” http://www.irena.org/
太陽光発電の累積導入量では2015年以降、中国が世界第一位となっており、2018年に国レベルの買取制度が中断したにも関わらず、さらに導入が進んでいます。すでに中国が、世界の太陽光発電の年間導入量の3分の1以上を占め、2022年には約86GWを一年間で導入して累積導入量でも2022年末までに390GWに達し、圧倒的な世界第1位となっています (図1)。米国については、米国太陽光産業協会(SEIA)からの発表では、2022年に新規に20GWを導入して2022年末には累積で140GWに達し、世界第2位となっています※4(IRENAのデータでは111GW)。これに日本が約79GWで続き第3位となっていますが、新規導入量は5GW未満に留まっています。なお、これらの太陽光発電の設備容量のデータは、太陽光パネルの発電出力が基準になっています(DCベース)。一方、日本国内で公表されているFIT制度でによる導入量は系統接続された出力(ACベース)が基準になっており、DCベースよりも1割程度小さくなるので注意が必要です。ドイツは、2014年まで世界1位の累積導入量でしたが、2022年末では66GWで第4位です(新規導入量は7GW)。
以下、累積導入量が20GWを超える国が10カ国あり、インドが63GW、オーストラリアが27GW、イタリアが約25GW、ブラジルが24GW、オランダが22GW、韓国が21GWとなっています。この中でインドは、年間13GWを導入して、60GWを超えました。ブラジルも新規に10GWを導入しました。オランダも8GW近くを新規に導入しています。それらに続き10GWを超える国は全部で15か国(前年は14か国)あり、ベトナムが18GW、スペインが18GW、フランスが17GW、英国が14GW、ポーランドが11GWとなっています。世界全体で累積導入量が2GWを超える国は32カ国(前年は31か国)に上ります。
※4 SEIA “U.S. Solar Market Insight” https://www.seia.org/us-solar-market-insight
図1:国別の太陽光発電の累積導入量のトレンド(出所:IRENA,SEIAデータより作成)
太陽光発電の年間導入量でみると日本は前年から若干増加して5GWを2022年に新規に導入しましたが、それに対して米国はその約4倍の20GW、インドは13GWを新規に導入しています(図2)。その結果、日本は年間導入量ではブラジル10GW、オランダの8GW、ドイツの7GWを下回り、世界第7位でした。世界全体で年間1GW以上の太陽光を導入している国は18カ国ありますが、そのうち6カ国(中国86GW、インド13GW、日本5GW、韓国3GW、台湾2GW、ベトナム2GW)がアジアです。欧州でも2022年は1GW以上の年間導入量となっている国がオランダ8GWが1位で、ドイツ7GW、スペイン4GW、ポーランド4GW、フランス3GW、イタリア2GW、ギリシャ1GWと7カ国に増えました。その結果、人口あたりの累積導入量は、オランダが約1200W/人で世界第一になっています。第二位はオーストラリアの1000W/人、第三位のドイツの800Wと続き、日本は約600W/人で第4位でした。
図2:国別の太陽光発電の導入量(2022年末)トップ20
(出所:IRENA,SEIA等データより作成)
風力発電市場は2010年以前には欧州の一部の国(ドイツやスペインなど)や米国が牽引していましたが、2010年以降は中国が風力発電市場を先導しており、欧州各国(英国、フランス、イタリア、トルコ、スウェーデン、ポーランドなど)や他の新興国(インド、ブラジルなど)でも導入が進んでいます。中国での風力発電の年間導入量は2014年に20GWを超えて以降、2018年には48GWに達していましたが、2022年の年間導入量は約38GWでした※5。世界全体の風力発電の年間導入量約77GWの約5割を中国が占めており、日本国内での年間導入量0.14GWの実に260倍近くに達します。中国は2022年末には風力発電の累積導入量が365GWに達しています。いまや中国は世界一の風力発電の導入国であり、欧州全体での累積導入量255GWの1.4倍に達して、日本国内の累積導入量4.6GWの80倍近くに達しています(図3)。
※5GWEC “Global Wind Report 2023” https://gwec.net/globalwindreport2023/
図3:世界各国の風力発電の累積導入量の推移(出所:WWEA,IRENAのデータより作成)
近年注目されている洋上風力発電については、2022年に約9GWが世界全体で新規導入されましたが、前年の新規導入量21GWからは大幅に減少しました。累積導入量では約64GWに達しており、風力全体の約7%に達しています。イギリスでは風力発電の導入が洋上風力を中心に進んできており、2022年末までの風力発電の累積導入量28GWのうち洋上風力が世界第2位の14GW導入されています(図4)。2022年には中国において5GWが新規に導入され、世界一の洋上風力の市場になっており、累積導入量でも31GWに達して世界第一位になっています。新規導入量では、英国で1.2GWが導入され第2位になり、第3位は台湾の1.2GWでした。その結果、台湾では洋上風力の割合が60%以上に達して、累積導入量は1.4GWとなりました。アジアでは、その他、ベトナムでも1.0GW(20%)に達して洋上風力の導入が進んでいます。欧州では、ベルギー(47%)、イギリス(49%)、デンマーク(33%)、オランダ(31%)などで洋上風力の割合が累積設備容量の20%を超えてきています。
図4: 洋上風力発電の累積導入量(2022年)(出所:IRENAのデータより作成)
環境エネルギー政策研究所
松原弘直