※本記事は、2030年までの石炭火力の脱却を目指す「Japan Beyond Coal」のレポート紹介記事を、承認を受けたうえで転載しております。※
2024年1月、国際エネルギー機関(IEA)が世界の再生可能エネルギー市場レポート2023年版『Renewables 2023』を発表しました。このレポートによると、2023年の世界の再生可能エネルギー発電設備容量は、前年から50%増加し、約510GWに達しました。追加容量の4分の3は太陽光発電が占めています。国別で見ると顕著な伸びを示したのは中国で、2023年に、2022年の世界全体と同規模の太陽光発電を稼働させていますが、欧州、米国、ブラジルの再エネ容量の増加も過去最高を記録しました。この増加傾向は今後も続き、2023~2028年の5年間で7,300GWにまで達すると予測しています。太陽光発電と風力発電がこの拡大分の95%を占め、2025年初頭には再エネが石炭を抜いて世界最大の発電源となるとの見込みも示されています。
とはいえ、現在の政策と市場状況下では、世界の再エネ発電量を2030年までに2.5倍に増加することは見込めるものの、COP28で合意された2030年までに3倍に増加させる目標を達成するにはまだ不十分であり、少なくとも11,000GWに達する必要があるとも記されています。この目標を達成するためには、ほぼ全ての国で再エネの普及拡大を進めるだけでなく、多くの新興国や発展途上国に向けた再エネへの資金調達および拡大支援を行うことが鍵になります。目標達成に必要なことは、国や地域、技術によって大きく異なることを踏まえつつ、その最大の課題は、多くの新興国や発展途上国における再エネへの資金調達と普及を拡大することであると述べています。
以下にレポートの要約を記します。
再エネの明るい話
- 2023年は中国の太陽光発電市場に牽引され、再生可能エネルギー容量の増加が進んだ
- 2028年までに世界の電力構成は一変する
- 2028年までに世界で稼働すると予想される新しい再生可能エネルギー容量のほぼ60%を中国が占めることに加え、2028年までに米国、欧州連合(EU)、インド、ブラジルで導入される太陽光と陸上風力は、過去5年間の2倍以上になると推計される
- 2023年の太陽電池モジュールの取引価格は前年比で約50%下落し、生産能力は2021年の3倍に達した
- 現在建設中の製造能力を見ると、太陽光発電の世界供給量は2024年末までに1,100GWに達すると予測される
- 2023年に新たに設置 された大規模太陽光発電と陸上風力発電容量の推定96%の発電コストが、新設の石炭・天然ガス発電所よりも低くなった
- 2028年には、世界の発電量に占める再生可能エネルギーが42%以上を占め、風力と太陽光発電の割合が25%と倍増する
再エネの抱える課題
- 2023年、先進国で融資された新規の再生可能エネルギー設備は、初めて中国や世界平均よりも高い基準金利にさらされた
- 新たなマクロ経済環境が政府と産業界に与える影響は多岐にわたる
- 再生可能エネルギー産業、特に風力発電産業は、財務の健全性に影響を及ぼすマクロ経済の課題に取り組んでいる
- 新しいマクロ経済環境の影響を最も受けているのが洋上風力で、中国以外では2028年までの拡大率が15%下方修正された
- 再生可能エネルギーの導入が加速すれば、統合とインフラ整備の課題が増大する
また、このレポートには、グリーン水素(再エネ由来の水素)とバイオマス燃料、再エネ熱(renewable heat)の利用についても言及しています。
グリーン水素の製造に特化した再エネの導入量は、2023~2028年の間に45GW増加すると予測されていますが、これはこの期間に世界で発表されているプロジェクト容量のわずか7%にすぎません。その理由としては、オフテイカー(プロジェクトファイナンスにおいて、サービスを最終的に購入する側)の不足と、価格上昇による製造コストへの影響により、計画されたプロジェクトが最終的な投資決定に至るペースが遅いことが挙げられています。
その役割が注目されているバイオマス燃料は、現在も世界のバイオ燃料生産の大半を占めるブラジルを筆頭とする新興経済国での成長が続き、その速度は過去5年間を30%上回ると見込まれています。IEAは、堅調なバイオ燃料政策、輸送用燃料需要の増加、豊富な原料ポテンシャルに支えられ、2023~2028年の5年間で、新興経済国が世界のバイオ燃料需要増加の70%を牽引すると予測しています。電気自動車(EV)とバイオ燃料が石油需要の削減を促すことが証明されつつありますが、一方で、IEA の 2050 年までのネット・ゼロ・エミッション(NZE)シナリオで示されているような、2030 年までにバイオ燃料需要が3倍に増加するとのシナリオには届いていません。新たな政策とサプライチェーンの課題への取り組みによって、バイオ燃料の普及を大幅に加速させることは可能であると述べています。
再エネ熱(renewable heat)の消費は、2023~2028年に世界全体で40%増加し、熱消費全体の13%から17%に増えるものの、2028年までの動向からは、世界をパリ協定の目標達成に向けた軌道に乗せるには不十分であると指摘されています。
最後に、IEAはこのレポートと同時に、別のレポート『Renewable Energy Progress Tracker』も発表しています。そちらでは、再エネ3倍増の目標に向けた進捗状況のトラッキング(追跡)を含め、地域や国レベルでの過去のデータや予測を調べることができますので参考にしてみてください。
世界の再生可能エネルギーによる発電能力は、過去30年間で最も急速に拡大しています。それは素晴らしいことです。しかし、Progress Trackerには、2022年の世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合が29%と示されています。2028年には42%になると予測していますが、脱炭素を達成に向け、一層の再エネの拡大が急務です。
関連リンク
- プレスリリース:Massive expansion of renewable power opens door to achieving global tripling goal set at COP28(リンク)
- レポートダウンロードページ:Renewables 2023, Analysis and forecasts to 2028(リンク)
- YouTube動画:IEA Renewables 2023