都道府県や市町村別などの地域毎に評価することで、より大きな割合で自然エネルギーを供給している地域を見出し、自然エネルギーにより持続可能な地域を将来に渡り増やしていくことが重要です。そのため、2007年から毎年、「永続地帯研究会」(千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所(ISEP)の共同研究)として日本国内の地域別の自然エネルギー供給の現状と推移を明らかにしてきています 。
地域における自然エネルギーの割合が、その地域の持続可能性の指標として有効であり、その地域の特性に応じて太陽光や風力、小水力、地熱、バイオマスなどの様々な自然エネルギーを活用した実績を指標として評価することにより、これまで経済的な指標などでは捉えられなかったその地域の持続可能性を評価することが可能となります。
2024年6月に「永続地帯2023年度版報告書」で公表されたエネルギー永続地帯のデータ(2022年度推計)より、地域別の自然エネルギーの割合から各地域の特徴をみていきたいと思います。
日本国内全体では、自然エネルギー(大規模水力を含む)の年間発電電力量に占める割合がようやく2022年度に24.5%になりましたが、2023年(暦年)では25.7%となっています[4]。2022年度の自然エネルギーの年間発電電力量の割合をみると太陽光発電が10.6%と最も大きな割合になっており、水力発電(大規模水力を含む)が7.7%とその次に大きな割合を占めていますが、バイオマス発電は5.1%、風力発電は1%未満(0.9%)、地熱発電は0.3%に留まっています。
公表されたエネルギー永続地帯のデータ(2022年度)を市町村別にみると地域的エネルギー自給率(地域の民生および農林水産部門のエネルギー需要に対する自然エネルギー供給の年間の割合)が100%を超える地域が216市町村に達しています。10年前の2011年度は50市町村だったので、約4倍以上の数になりました。ここで、エネルギー需要には電気と熱の年間需要量を都道府県データから世帯数や従業員数などで按分することで市町村毎に推計していますが、運輸部門は含まれていません。地域での自然エネルギーの供給では、太陽光、風力、地熱、バイオマス、小水力(1万kW以下)による年間発電電力量、太陽熱、バイオマス熱、地熱(地中熱や温泉熱)の供給量が含まれています。電力量だけを評価して地域の電力需要量に対して自然エネルギー供給の割合で100%を超える「電力永続地帯」と評価された市町村の数は300を超えて355に達しています(図1)。
図1:エネルギー永続地帯および電力永続地帯の自治体数の推移
都道府県別にみると、秋田県の地域的エネルギー自給率は58.3%で、60%近くに達しています。50%を超える都道府県が、大分県(55.6%)、群馬県(51.8%)、鹿児島県(51.2%)と合わせて4県となりました。40%を超える都道府県は、福島県(48.7%)、宮崎県(47.4%)、三重県(46.8%)、栃木県(44.3%)、熊本県(42.5%)、茨城県(42.2%)、岡山県(41.3%)、岩手県(40.5%)と合わせて12県となっています。民生(家庭、業務)および農林水産用の電力需要と比較した地域的な電力供給の割合(地域的電力自給率)で比較すると、秋田県(87.9%)が80%を超え、大分県(73.5%)、鹿児島県(70.4%)が70%超え、群馬県(68.0%)、宮崎県(67.1%)、福島県(66.0%)、栃木県(61.1%)、三重県(60.5%)を合わせて8つの県で、60%を超えています(図2)。合わせて14の県で、その割合が50%を超えていますが、都道府県毎に特徴があります(表)。
第1位の秋田県では風力が42%と大きく、地熱も18%、小水力も13%ありますが、太陽光は9%と全国の中でも割合が小さくなっています。風力の割合が10%を超える都道府県は、この秋田県(41.9%)、青森県(31.7%)と岩手県(10.7%)の3県しかありません。また、地熱が10%を超える都道府県はこの秋田県(18.4%)と大分県(18.1%)しかありません。小水力の割合が10%を超える都道府県は、この秋田県(12.9%)の他に、富山県(26.6%)、長野県(18.2%)、鳥取県(12.3%)、熊本県(10.6%)および山梨県(10.6%)の合わせて7県です。このように、秋田県は風力、地熱および小水力の割合がいずれも高いという自然エネルギーに恵まれた地域となっています。地域的電力自給率で第2位の大分県は73.5%ですが、2018年度までの推計値では地域電力自給率は第1位でした。太陽光が約41%と大きく、地熱が18.1%、バイオマスが約7%あります。全国で太陽光の割合が40%を超える都道府県は、群馬県(54.9%)が最も高く、それに次いで栃木県(53.6%)、三重県(51.5%)、茨城県(49.8%)、宮崎県(47.9%)、鹿児島県(47.8%)、福島県(47.3%)、岡山県(45.7%)、大分県(41.2%)の9県となっています。第3位の鹿児島県の地域的電力自給率は70.4%で、太陽光の割合が約48%ですが、風力が約7%あり、地熱も約4%あります。第4位の群馬県は68.0%で、太陽光発電の割合が全国一位の54.9%となりました。なお、バイオマス発電は宮崎県が13.5%と最も高く、和歌山県(7.7%)、高知県(7.4%)、大分県(7.0%)、岩手県(6.8%)、島根県(6.7%)、鹿児島県(6.0%)、秋田県(6.0%)が続いています。
表:2021年度の県別の地域的電力自給率(トップ12)出所:永続地帯研究会
県 | 太陽光 | 風力 | 地熱 | 小水力 | バイオマス | 電力自給率 |
秋田県 | 8.8% | 41.9% | 18.4% | 12.9% | 6.0% | 87.9% |
大分県 | 41.2% | 0.2% | 18.1% | 7.0% | 7.0% | 73.5% |
鹿児島県 | 47.8% | 6.7% | 4.4% | 5.5% | 6.0% | 70.4% |
群馬県 | 54.9% | 0.0% | 0.0% | 10.2% | 3.0% | 68.0% |
宮崎県 | 47.9% | 2.2% | 0.0% | 3.5% | 13.5% | 67.1% |
福島県 | 47.3% | 5.0% | 1.3% | 9.2% | 3.2% | 66.0% |
栃木県 | 53.6% | 0.0% | 0.0% | 5.4% | 2.2% | 61.1% |
三重県 | 51.5% | 4.6% | 0.0% | 1.3% | 3.0% | 60.5% |
青森県 | 20.1% | 31.7% | 0.0% | 6.3% | 1.8% | 59.8% |
岩手県 | 27.8% | 10.7% | 6.1% | 8.4% | 6.8% | 59.7% |
茨城県 | 49.8% | 1.5% | 0.0% | 1.0% | 2.8% | 55.1% |
熊本県 | 37.4% | 0.9% | 0.2% | 10.6% | 4.4% | 53.6% |
和歌山県 | 35.5% | 7.8% | 0.0% | 0.8% | 7.7% | 51.8% |
岡山県 | 45.7% | 0.0% | 0.0% | 2.7% | 3.3% | 51.7% |
全国平均 | 18.0% | 1.8% | 0.5% | 2.8% | 2.7% | 25.8% |
さらに、355もの市町村が電力需要に対して100%を超える割合の自然エネルギーが供給されていると推計されています。風力発電だけでも100%を超える市町村は50あり、地熱発電では7市町村、小水力発電では83市町村ありますが、前年度からあまり増えていません。一方、2012年にFIT制度がスタートしてこの10年間で太陽光発電の導入が急速に進み、178の市町村では太陽光だけで地域的電力自給率が100%を超えており、前年度(161市町村)から大幅に増加しています。これらの発電設備のほとんどは、地域外の企業が所有・運営しており、地域の自然エネルギー資源を地域主体で活用するコミュニティパワー(ご当地エネルギー)としての取り組みが求められています。また、地域での普及の遅れがみられる自然エネルギーの熱利用(太陽熱、バイオマス、地中熱など)への本格的な取り組みも期待されています。
図2:都道府県別の自然エネルギーの供給割合のランキング(2022年度推計値)
出所:永続地帯研究会(千葉大学倉阪研究室+環境エネルギー政策研究所)
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
松原弘直