近年、気候変動が深刻化の一途をたどり、早期の温室効果ガス排出削減が求められるなかで、自然エネルギーへの国際的な関心が高まっています[1]。コスト低下にともなって、世界的に自然エネルギーの導入が進み、企業を含むさまざまな需要家でも自然エネルギーを選択する動きが加速しています。かつては夢物語と考えられていた「自然エネルギー100%」は、近い将来に実現するビジョンへと変わりつつあります。
一方、周辺の環境影響への配慮や地域のステークホルダーとの合意を欠いたまま導入される事例も一部に見られるようになりました。従来の大規模集中型のエネルギー設備と異なり、自然エネルギーは分散型であることから、普及が進むほど、環境や地域社会との接点が増えることとなり、場合によっては自然エネルギーの導入が地域に紛争を招いてしまう可能性もあります。
自然エネルギー100%プラットフォームでは、環境NGO関係者、自然エネルギー事業関係者、自然保護関係者による対話の成果として2015年に発表された「持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス」を参照することで、基本的な考え方を整理し、環境・地域社会と共生するかたちでの自然エネルギー100%をめざします。
持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス
持続可能な発展には自然エネルギーの利用が必須
生物多様性の維持や地球温暖化の回避を始めとする環境保全を基盤として、将来世代を含む社会的な公平性および公正性と、広義の経済的な発展とのバランスのとれた持続可能な発展を目指すためには、自然エネルギーの利用が中長期的に唯一の永続可能なエネルギー資源です。
省エネルギー
持続可能な発展を構成する「持続可能なエネルギー」システムにおいては、供給側では自然エネルギーの利用が必須であり、需要側では省エネルギーが必須です。そのためには、あらゆる分野で単なる節約に留まらずエネルギー利用機器の効率を飛躍的に高めるとともに、産業構造の変化も含む社会構造の変革をとおして、人々のニーズを損なわないかたちで社会全体のエネルギー総需要を削減してゆくことが必要です。
自然エネルギーは必然だがそれだけでは不十分
すべての自然エネルギー事業が「持続可能な開発」に該当するとは限りません。開発利用のあり方・社会的合意のあり方によっては、「持続可能なエネルギー」ではない自然エネルギーもあることを認識します。
予防的アプローチ
自然エネルギーが環境・社会にもたらすリスクは、他の持続不可能なエネルギー(化石燃料および原子力)と比較すれば、相対的に小さいですがゼロではありません。自然エネルギーの開発においても、重大かつ取り返しのつかない影響の恐れがある場合には、予防的なアプローチをとることが必要です。
地域社会の合意を前提
自然エネルギーの利用は、地域の物理的・社会的な環境の改変を伴うことが避けられないことから、とくに地域社会にかかわるさまざまなステークホルダーの社会的な合意を前提とします。
自然エネルギー利用の持続可能性を高める方策
開発利用にあたって予防的アプローチを取るとともに、社会的な合意を高める自然エネルギー利用方策として、土地利用ゾーニングや戦略的アセスの見直しなど予防的にリスクを下げるための自主的・行政的・制度的な改善を図り、自然エネルギーによる便益を高める努力をするとともに、地域コミュニティの主体的な参加など合意形成を高める新しい社会モデルの構築を目指します。
暫時的合意と継続的な改善・見直し
科学的な知見の不確実性・不十分性および社会的合意の時代変化を考慮して、自然エネルギーの開発利用はその時点における暫時的合意との共通理解に立ち、その開発利用のあり方については将来にわたって継続的に改善・見直しを図ります。
一方、以下のような自然エネルギー開発は、望ましくありません。
望ましくない自然エネルギー開発のあり方
- 森林や泥炭地などの転換を伴うもの、大規模で深刻な気候・生態系の攪乱を伴うもの
- 食糧生産のための資源(農地、水を含む)を圧迫しているもの
- 地域住民の権利(土地、水、居住、食料、文化、安全、健康などへの権利)や労働者の権利を侵害しているもの
- 環境・社会影響に関する調査、評価、予測、対策が適切でなく、地域の合意が得られていないもの
例)
- 持続可能でない燃料(パーム油、パームヤシ種子殻など)を輸入する木質バイオマス発電
- 大規模な森林伐採や土地改変をともなう太陽光発電
- 生態系や周辺住民の健康への影響に配慮しない風力発電 など
以上のような望ましくない自然エネルギー開発を回避するための計画手法や政策枠組み、ビジネスモデルなどが必要であると考えます。自然エネルギー100%プラットフォームは、より望ましい形で自然エネルギー100%社会を実現することをめざし、引き続き活動していきます。
参考
- 持続可能な社会と自然エネルギー研究会(2015)「持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス」
- 市川大悟(2018)「自然エネルギー“100%”の実現に向けて−「省エネ」の重要性と可能性を考える」自然エネルギー100%プラットフォーム
- 市川大悟(2018)「自然エネルギー100%を実現する「要」 − 環境配慮の大切さについて考える」自然エネルギー100%プラットフォーム
- ウータン・森と生活を考える会、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、気候ネットワーク、国際環境 NGO FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワーク、プランテーション・ウォッチ(2019)「バイオマス発電に関する共同提言」
[1] 2018年10月に発表された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による『1.5℃特別報告書』では、現在の規模での二酸化炭素排出が続いた場合、2030年には気温上昇が産業革命前に比べ1.5℃に達する可能性が示されました。このままでは、気候変動は危険なレベルに突入することが示されており、その回避には、緊急かつこれまでにない大幅な削減対応が必要であるとしています。同報告書では、気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには、2050年までに電源の70〜85%を自然エネルギー由来にする必要があるとしています。