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自然エネルギー100%をめざす上では、自然エネルギーの供給を増やすだけでなく、省エネルギーを進めることが重要です。省エネを進めることで、自然エネルギー100%はより容易に達成することが可能になります。

100%にとっての影の主役「省エネ」

 2018年6月3日、REN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)から、世界の自然エネルギーの導入状況を示すレポート「Global Status Report (GSR)」が公表されました。依然として、世界全体で自然エネルギーが順調に増加していることを示した本レポートですが、同時に、国別の導入割合(%)では、大きな差があることを示しました。

日本もその1つ。“自然エネルギーの導入割合(発電電力量当たり)”という点では、まだまだ他国に比べて伸び悩んでいます(図1参照)[1]。これはなぜでしょうか?

図1. 各国の自然エネルギーの導入割合(2017年)出所:自然エネルギー財団HPで公表の2017年の電源構成(世界12カ国)より抜粋し作図

ひとつには、太陽光などに比べ発電効率が高く、いまや世界の自然エネルギーの主力である風力発電の設備導入量(kW)が、他国に比べて少ないことが挙げられます(図2参照)。しかし、それだけが理由とは限りません。別の理由としては、「省エネの取組み」の遅れが考えられます。

図2. 2017年 世界と各国の自然エネルギー設備導入量|出所:REN21, GSR 2018

社会での自然エネルギーの導入割合を増やすことを考えるとき、それは“いまあるエネルギーの需要(kWh)に対して、より多くの自然エネルギー(kWh)でまかなっていくこと”を指します。言い換えれば、もし、自然エネルギー(kWh)の導入量が一定であれば、対する需要そのものが大きくなることで、当然、導入割合(%)は低くなってしまいます。

裏を返せば、需要を減らす「省エネの取組み」が、自然エネルギーの普及(率)に重要な役割を果たすことを示しています。とりわけ、我々が“自然エネルギー100%を目指す”という大きな目標を掲げる上では、切り離すことのできない重要な取組みと言えます。これは、電気だけでなく、熱についても言えることです。

目指すべき省エネの目標値

では、日本はどの程度の省エネが可能なのでしょうか? この点については、いくつかの示唆が得られています。たとえば国(経産省)では、エネルギー基本計画[2]に準拠した定量的な目標値を設定しています。

エネルギーミックスと言われるその目標値では、電気・熱を含めた国全体のエネルギーの総量(最終エネルギー消費量)で、2030年までに13%削減(未対策時に比べ)が掲げられています。

しかし、この目標値が削減できる限界とは限りません。他方で、この削減量より多くの削減が可能とする研究報告があるためです。例えば、2017年、WWFジャパンが発表した「脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017」では、2050年における日本全体でのエネルギーの削減可能性について、最終エネルギー消費量で最大46.8%(2010年比)の削減が可能であることを示しています(図3参照)。

図3. WWFシナリオが示す主要な省エネと削減量(オレンジ斜線部が省エネ後の需要)

よく日本では、省エネの取組みについては、“乾いた雑巾を絞るようなもの”であり、現在以上の削減は難しいとう声が聞かれます。しかし、このWWFシナリオでは、現在ある既存の省エネ技術であっても、まだまだ普及率の低いものがあり、そうした技術の普及でも大幅な削減が十分可能であることを示しています。

例えば、最もエネルギー消費量が大きい産業分野においては、インバーター制御の普及による、モーターなどの効率の改善。家庭や業務部門においては、建物の断熱化、照明のLED化などで大きな削減の可能性が示されています(他の詳細については、シナリオをご参照ください)。

なお、同シナリオでは、こうした省エネの取組みにより削減された後に残る、“それでもなお100%の社会に必要なエネルギー需要”は、それを生み出す自然エネルギーの設備容量(kW)にして、太陽光で約4億4,400万kW、風力で約1億400万kWに及ぶことを示しています。

もし、これらの省エネ対策をしなければ、自然エネルギー100%の実現に必要な設備容量は、この量に留まらないのは推して知るべしでしょう。日本の国土面積を考えても、100%を実現するためには、省エネの取組みがいかに重要であるかがわかります。

このようにして考えた時、先に紹介した、日本の現行のエネルギーミックスで示される省エネの目標量はこのままでいいのか?という疑問が残ります。

自然エネルギー100%プラットフォームやRE100[3]に示されるように、世界が自然エネルギー100%に向かって走り出すなか、まさにいま、エネルギー基本計画の改定がなされている日本で、新しいエネルギーミックスの見直しをも進めていくことが、強く問われていると言えるのではないでしょうか[4]

執筆:WWFジャパン 市川大悟


[1] ここでの導入割合とは、発電電力量あたりを指す。GSR(p190)では、日本のシェアは目標値のみの紹介であり、実績値が示されていない。ただし、その目標値(2030年)が、現時点での他国のシェア(導入実績値)を下回ることからも、日本の遅れは明確。図1では、別紙にはなるが、同様の発電電力量あたりのシェアについて、自然エネルギー財団が取りまとめているため参照した。

[2] エネルギー基本計画については、2015年に策定された第4次基本計画につづく第5次基本計画が、本記事執筆時(6月初頭)においてパブコメに掛けられているところ。

[3] RE100については、自然エネルギー100%プラットホームのニュース記事(2017年12月11日)で紹介している。

[4] エネルギーミックスについては、第4次基本計画の見直しに合わせて変更はしないとの方向性が、基本計画案(p10 第3節)の中で“~これまでの基本的な方針を堅持しつつ~”として示されている。