自然エネルギー100%を目指していく際、自然エネルギー設備を増やしていくという方向性の傍らで、とかく見落とされがちな2つの重要なポイントがあります。1つは、先刻の記事で紹介した「省エネ」の取組み[1]。そしてもう1つが「環境配慮」です。本コラム記事では、自然エネルギー100%を目指す上で、なぜ環境配慮が重要な視点となるのか、そして、どのように配慮していけるのかについて紹介します。

[1] 記事:2018年6月21日「自然エネルギー“100%”の実現に向けて−「省エネ」の重要性と可能性を考える」

自然エネルギー100%、その実現のための開発規模を振り返る

自然エネルギー100%の社会を目指す本プラットフォームでは、これまでの記事のなかで、自然エネルギー100%社会の実現が可能であることを紹介してきました。

図1. 自然エネルギー導入量の将来見通し

徹底的な省エネを行えば、既存の自然エネルギー技術(太陽光や風力など)で、エネルギー源を代替できること[2]。その実現は、設備容量にして太陽光で約4億4,500万kW、風力で1億400万kWが必要になるとの研究示唆があることを紹介しました。

[2] 記事:2017年10月26日「自然エネルギー100%社会は実現可能か?『脱炭素社会シナリオ』による検証」

改めてこの数字を振り返ってみると、その開発規模の大きさがよく分かります。例えば、この太陽光や風力の設備容量の全てについて、2050年という節目(先進国が温暖化問題のため十分な対処を講ずるべきとされている)[3]までに導入すると考えると、年平均では、太陽光で約1,183万kW、風力で約272万kWにも相当します[4]

[3] 日本も参加する“パリ協定”では、“世界の温度上昇を2℃未満に抑える”という目標が掲げられている。また、この2℃未満の達成に必要な排出削減量としては、IPCCの旧レポート(AR4)では、先進国は2050年までに温室効果ガスで約80~95%(1990年比)の削減が必要との示唆が与えられている(なお、最新のレポート(AR5)では、世界全体で約40~70%(2010年比)の削減が必要と示されている)。
[4] 再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(第1回)の資料3では、2016年末までの累積導入量が、太陽光(住宅用+非住宅用)で約3,761万kW、風力で約324万kWとなっている。一方、WWFシナリオで示す2050年時点での累積導入量は、太陽光4億4,000万kW、風力1億400万kW。これらの差分を、2017~2050年の年数で等価換算した。

劇的に導入が進んだ、2012年のFIT法施行以降の年平均が、それぞれ太陽光で約640万kW、風力で約13万kWであることを踏まえると[5]、自然エネルギー100%社会の実現には、滞りない着実かつスピーディーな導入の遂行が、今後必須であることが分かります。

[5] 上記と同様の資料3では、2016年末時点での、FIT制度以降の太陽光(住宅用+非住宅用)の累計が3,201万kW、風力で64.2万kWとなっている。ここではFIT開始である2012年7月~12月も1年として、2016年末までを計5年間として、等価換算した。なお、実際には風力等は建設に長期間を有するため、導入済み数に表れない計画がこれとは別にあることに注意。

普及が進むにつれ増大する「軋轢」

一方、導入が進むことで、逆に普及を難しくする新たな課題も認識されるようになりました。自然エネルギー設備を送電線に接続できない、いわゆる系統線の「空容量ゼロ問題」[6]などがその代表例ですが、もう1つあまり認識がされていない、大きな問題が存在します。開発にともなう「地域との軋轢」です。

[6] 上記と同様の資料3では、2016年末時点での、FIT制度以降の太陽光(住宅用+非住宅用)の累計が3,201万kW、風力で64.2万kWとなっている。ここではFIT開始である2012年7月~12月も1年として、2016年末までを計5年間として、等価換算した。なお、実際には風力等は建設に長期間を有するため、導入済み数に表れない計画がこれとは別にあることに注意。

FITでの買取価格の低下や、系統接続の費用が増大するなかで、採算性が取れるよう自然エネルギー事業の開発規模が大きくなっていること。加えて、開発が進むほどに、開発容易な場所が減少していることなどが原因となり、地域の自然や社会環境に負担をかけてしまい、住民との間で軋轢が生じる結果になっているものと考えられます。

もし、今後もこのような事象が増えてしまえば、環境問題(温暖化問題)への切り札であるはずの自然エネルギーも、むしろ環境問題を引き起こす原因と認識され、そのさらなる普及にストップがかからないとも限りません。

こうしたリスクは杞憂ではありません。すでにその片鱗をうかがわせているためです。例えば、風力発電の紛争に関する先行研究では、総事業の約4割がこうした地域からの理解を得られないことによる反対を経験したとの報告があります[7]。太陽光についても、やはり大型事業で同様の事象が発生しているとの報告がなされています[8]

[7] 畦地啓太・堀周太郎・錦澤滋雄・村山武彦(2014)「風力発電事業の計画段階における環境紛争の発生要因」『エネルギー・資源学会論文誌』35(2)
[8] 山下紀明(2016)「研究報告メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」 ISEPウェブサイト

図2.太陽光と風力におけるトラブルの概況

とはいえ、温暖化の進行で受ける影響を考えれば、導入は避けては通れません。自然エネルギー100%という、大きな目標を実現していくためにも、今後の開発は、事業者が地域の納得を得られるような、十分な環境配慮を伴うものとしていかなければなりません。

環境配慮のあり方について

それでは、具体的には、どのように環境配慮を実現していけばよいのでしょうか?じつはすでに、これに対する答えのひとつとなる取り組みが各地でスタートしています。「ゾーニング」と呼ばれる適地評価のプロセスです。

図3. 自然エネルギーを取り巻く状況とゾーニングの役割

従来は、事業者が主となって事業の立地場所を選定してきましたが、これを、事業計画の内容が具体的に固まる前の段階に、地域の住民や行政、有識者などが中心となって検討し、自分達の地域で、開発を受け入れられる場所、そうでない場所を仕分けて、公表するプロセスを言います。地域環境をよく知り、そこに住まう人達が話し合うことで、環境負荷の少ない、地元が納得できる持続可能な開発に誘導することができると考えられています。

図4. ゾーニング関連の取組みを行っている団体

現在、県レベルでは青森県、岩手県、宮城県など、市町村レベルでは10近くの基礎自治体が策定済み、あるいは取り組みを進めています。2018年3月20日に、環境省から自治体向けに取組みのためのマニュアルが配布されたこともあり、今後はさらに各地で広がっていくことが期待されています[9]

[9] 環境省報道発表(2018年3月20日)

今後、自然エネルギー100%という大きなチャンレジを乗り越えていくためにも、さらに多くの地域にこうした環境配慮を伴った開発を促せるような取り組みが広がることが望まれます。

執筆:市川大悟(WWFジャパン